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(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
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ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ
オーシャンズ11
アモーレス・ペロス
金色の嘘
バスを待ちながら
One Point Critics
キリング・ミー・ソフトリー/がんばれ!リアム
ジーパーズ・クリーパーズ
地獄の黙示録 特別完全版/WASABI/恋ごころ/息子の部屋
ヴィドック/ハートブレイカー/インティマシー 親密
美女と野獣 ラージ・スクリーン・フォーマット
世界平和を訴えようが、身近な色恋を取り上げようが、本質は一つ。「どうだ、カッコイイだろ!」のオレ様主義である。だから知らない人が見ると、情けなかったり、気味が悪かったりするファッションも平然とやる。要するに目立ちたがりなのだ。
ニューヨークから久々に生まれた、オリジナル・ロック・ミュージカルのヒット舞台を映画化したこの作品には、主演のジョン・キャメロン・ミッチェルの目立とう精神が満載である。
社会主義の旧東ドイツに生まれ、ロックに憧れるホモの少年。米兵と「結婚」して性転換を受けるも失敗。ナニが1インチだけ体に残ってしまう。この「アングリー・インチ(怒りの1インチ)」を残したまま、自由の国アメリカで、少年と恋に落ちるが、最愛の彼に自分の曲を盗作され、復讐のため、ツアー中の少年をストーカーとしてつけ回す。
冷静に見るとキモイし、相当にカッコ悪い。ところがジョンのパワフルなヴォーカルと、悪趣味なヴィジュアルに乗っかると、なぜかノリノリ。音楽的にはクラブ前夜のアコースティック・リズムに執着した骨太の楽曲づくりで、がコアなビートを生かしてくれる。その上MTVを通過した映像感覚と共に、アニメやSFXもごった煮的に満載した展開も、充分に楽しい。
これはいわば、カルト映画『ロッキー・ホラー・ショー』のテイストに、自分探しのテーマを載せた世界。カッコ悪いはずの主人公とクサいメッセージが、魅力的に見えてくる。これがロックの魔力なのか。久々でサントラ盤が欲しくなる一本である。
(2月23日より東京渋谷・シネマライズにてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.8,2002年2月19日号を一部改稿]
オーシャンズ11(2000,アメリカ)
★★★
『千と千尋の神隠し』『ハリー・ポッターと賢者の石』と、最近のヒット作はファンタジーものが主流。だが男向けの娯楽映画も負けていない。正月公開の『バンディッツ』に続き、手応えのある大人の映画が登場である。
刑務所を出所してきたカリスマ窃盗犯、オーシャンが狙う新しいヤマは、ラスベガス一のカジノ。ハイテクで厳重ガードされた金庫から、現金1億6千万ドルを盗み出すという、荒唐無稽な計画だ。
最近この手の話は、コンピュータのハッキングだけで展開する、ヴァーチャル・ドラマが多く、食傷気味だったが、この映画は気が利いている。初老の詐欺師から駆け出しのスリ、果ては中国系の軽業師まで、様々なジャンルのプロたちが、自分たちの技を駆使して、不可能を可能にしてゆく知的ゲームである。
最大の見所はプロとしてのプライドのスパーク。天才的犯罪者なのに、時代の変化やなにかの偶然で、ケチな仕事に甘んじていた男たちが、オーシャンの計画に身を震わせて、水を得た魚のように動き出す。
大金を手にすることが目的というより、一人一人が自分のプロ哲学を貫くことに最大の喜びを見いだしている。妙な社会的背景や問題提起は一切なし。真理ドラマも皆無。ひたすら男の美学をスタイリッシュに描く。『頭は使うが思想はなし』という、最近の映画が忘れていた遊び心が、全編を横溢している。
それを演じるのは、G・クルーニー、B・ピット、M・デイモンら、今が旬のクセモノ俳優揃い。迎え撃つカジノのオーナーがA・ガルシア。臭みなしに男のドラマを見せるのに万全のキャスト。男から見てカッコイイと思える男たちに、久々にスクリーンで出会える喜びは大きい。
紅一点J・ロバーツの登場場面は興ざめだが、まずはおしゃれなセンスを現代に蘇生させた、キャスト、スタッフに拍手を送りたくなる快作。元ネタである往年の傑作『オーシャンと11人の仲間』の支持者も納得の出来である。
(2月2日より渋谷パンテオン他全国松竹・東急洋画系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.6,2002年2月5日号]
アモーレス・ペロス(2000,メキシコ)
★★★1/2
相変わらず新人監督ラッシュである。その内容はというと、多くが身近な出来事を気の利いた思いつきで撮ったしまったもの。イキはいいが後が続かず、ほとんどの監督が二本目、三本目を発表していないのだ。
本物の才能を感じる映画には、監督の志が溢れている。「この人間を、物語を描かなければ、俺は死んでしまう」という切迫感、それを表現する並外れたパワーと努力で、観客を殴りつけるような爆発力がある。
この映画にはこれらの要素がぎっしり詰まっている。二時間半という長時間に、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督のエネルギーが漲り、荒々しくほとばしる。
現代のメキシコ・シティ。貧困と猥雑さが混沌とする大都会で、凄絶な交通事故が起こる。この事故に巻き込まれた三人のドラマを描いてゆく。
兄貴のカミサンに惚れ、一山当ててスラムから駆け落ちを企むチンピラ。ヨーロッパからやってきたハイソでセレブな美人モデル。元過激派テロリストの経歴を持つ初老の殺し屋。まったく接点がなさそうな三人が、不思議なドラマに取り込まれる。
キーワードは野生。人間が日常生活で隠している根源的な感情が、抑えを失い流出する。闘争心、残酷さ、攻撃性、そして哀しみ。腹の底から天にも地にも届けとばかりに、野生の叫びが響き出す。
都会に野生が充満する映像を彩るのは赤い鮮血。物語の鍵を握る闘犬たち――戦うために殺戮動物として調教された犬たちが牙を向き合い、命を懸けて戦うとき、人間も野蛮な獣性を解き放ってゆく。
娯楽精神と社会批判が渾然一体となりった骨太の作風に舌を巻く。ヤクザ、ギャングなど、これまで映画が題材としてきたアウトローたちが、すべてきれい事の作り物に見えるほどだ。ほとばしる激情の世界は、待ちに待った本格派新人の出現を宣言している。
(2月2日より東京シネセゾン渋谷にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』Nos.3,2002年1月15・22日合併号より]
金色の嘘(2000,米―英)
★★1/2
ヨーロッパの上流階級を描く、贅沢豪奢な作品では、安っぽさが最大の敵。高級な宝石と贅沢なお屋敷、目眩くドレスの数々は、CGでは歯が立たない。
そんな本物を求める人には『金色の嘘』は久々の満足作。イギリスとイタリアを舞台とした、元貴族と新興成金の日常は、眺めているだけでもため息ものである。
ただこの作品、原作は米国人ヘンリー・ジェイムズの小説。監督のジェイムズ・アイヴォリーもカリフォルニア出身。前半は駆け足だが後半に密度が高まる。欧米のカルチャー・ギャップが生む衝突が、テーマのひとつである。原作よりもセンティメンタルな肌触りだ。
近年のヨーロッパ、とりわけイギリスを舞台としたコスチューム・プレイは、外国人スタッフによるものが少なくない。地元の人が作ると、どこか話や設定をひねりたくなるようで、絢爛とした雰囲気に乏しい。外国の人間がヨーロッパに求めるイメージは、外国人が作った方が出るのかもしれない。
(1月12日より東京渋谷BUNKAMURAル・シネマにて公開)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』2002年2月号、東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年1月15日号を再編集の上一部訂正]
バスを待ちながら(1999,キューバ他)
★★★★
みんなと仲良くなりたい。みんなで幸せになりたい…自分で書いておいて、恥ずかしくなるような言葉である。
でも人間、まわりから嫌われたいとか、他人を不幸にしてやりたいと、心の底から願っている人はまずいない。戦争している国だって、最終目的は「みんなの安全と幸せ」なのだ。ただ不幸な偶然の連続で、修正が効かない袋小路に入ってしまっただけだ。
金があれば幸せというものではない。毎日笑って仲良く暮らす。こんな単純な理想が、現実には実現困難だから、みんなおかしくなってしまってるのである。
一度原点に戻ろう。素直になってまわりを見なおそう。この映画はそんな願いが込められた、現代のお伽話だ。
南米キューバの田舎町で、長距離バスを待つ人々。やっと来たバスは満員で乗れない。臨時バスを出そうにも故障が直せない。かなりあざとい手でズルして乗り込もうとする奴もいる。みんなのイライラは頂点に達し、バス停には一触即発の重い空気が漲る。
ところが「意地でもバスを待ってやる!」と開き直った人々に、不思議な連帯感が生まれる。老若男女の別け隔てなく、「どうせ待つならリラックスしようぜ」のノリが、予想外の幸福をもたらすのだ。
いったい何が起こるかは、見てのお楽しみにしておく。ただただ驚くような世界が待っている。そして幸せで切ない気持ちになれる。ひねくれて汚れちまった心に、痛烈なストレートを食らうような感動が待っている。
恥ずかしいくらいに暖かくやさしい物語を、南米の明るさと賑やかさで歌い上げる世界はこの上なく魅力的。最近発信されたどんなファンタジーよりも、堅くなった心を解し、生きる勇気が沸き上がってくる。
キューバが世界に放つ、ワールド・カップ優勝ものの大傑作。こういう映画を絵空事と呼ぶ心は、傷つくのを恐れた現実逃避なのだ。差し当たり国連はブッシュ大統領とビン・ラディンを一堂に集め、この映画を見せるべきだ。
(1月、東京渋谷シネアミューズにてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.50,2001年12月4日号]