Office NESHA presents movie guide
Jan.-Feb 2005

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
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プリティ・プリンセス2 ロイヤル・ウェディング
ビヨンドtheシー
ダブリン上等!
アレキサンダー
タッチ・オブ・スパイス
ビフォア・サンセット
きみに読む物語
天井棧敷の人々
ネバーランド
オペラ座の怪人
赤いアモーレ



プリティ・プリンセス2 ロイヤル・ウェディング(2004,アメリカ)
★★

  レンタルでジワジワ人気を呼んだロマンティック・コメディ『プリティ・プリンセス』。アメリカの平凡な女子高生ミアが突然、ヨーロッパ(?)の小さな王国の王女になるドラマの続編がやってきた。監督は前作に引き続きゲイリー・マーシャル。『プリティ・ウーマン』を筆頭に、女の子コメディを撮らせたらハリウッド一の名手だ。主演も同じく『Lux』のCMが日本でもお馴染みのアン・ハサウェイ。
 「21才の誕生日までに婚約しないと、王位継承権を失う」と知り、大慌てで花婿探し。王妃となるレッスンも続けながら、「王位継承のための結婚なんて…?」と悩んだり、王位目当てで近づく美男子についヨロメイたり、乙女心は前作より複雑。
  ミア王女はパレードの最中、施設の少女がいじめられているのを目に留め、彼女たちをパレードに参加させる。そして王宮の一つを開放し、なんと女の子だけのパジャマ・パーティを主催! 全編で最も心躍り感動的な場面だ。
  ミアのお婆様である現女王役も、引き続きジュリー・アンドリュース。今回は女王の秘められたロマンスも明かされ、お伽話に華を添える。しかもパジャマ・パーティの最後に、『メリー・ポピンズ』、『サウンド・オブ・ミュージック』などでお馴染みの歌声を、久々で披露。ミュージカル・ファンは感激の涙間違いなし!
  現代のお伽話を大人の目で作るマーシャル監督が、ラストでミアにどんな希望と愛を準備したか、劇場で確かめよう。

[2月26日より東京・日比谷みゆき座他全国ロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年3月号に一部修正]


ビヨンドtheシー(2004,アメリカ)
★★

  ニューヨークの貧しいイタリア系移民の子に生まれ、女手一つで育てられた少年ウォルデン。幼少期に重い病を患い、「15才まで生きられたら奇跡」と医者に宣告されながら、少年はショウ・ビズ界のスターとなる夢を抱いた。
  1950年代末。ウォルデン少年は歌手ボビー・ダーリンとして、ライト・ポップス界の人気者となった。更に大人のポビュラー歌手に脱皮。オペラとジャズとポップスの垣根を越えた歌を手がけ、ビルボード・チャートの年間ナンバー1ヒット、『マック・ザ・ナイフ』を放つ。俳優としても映画に進出し、可憐な若手映画スター、サンドラ・ディーと結婚。ボビー・ダーリンは名実共に、我が世の春を謳歌しているように見えた。
  だが60年代を迎え、キューバ危機、ヴェトナム戦争と、社会は曲がり角に差し掛かり、ショウ・ビズ界も新たな若者文化へとシフトしてゆく。そんなさなか、ボビーは自分の出生の秘密を初めて知らされる。
  俺の人生はウソだったのか? ボビーはゴーギャンのようにすべてを捨てる。ステーション・ワゴンで荒野をさまよい、フォーク・ソングでヴェトナム反戦を歌う。自分探しの旅の末に、彼が最後に見つけ出したものは何か?
  この37才で病死した、実在の歌手の生き様に魅せられたのが、『アメリカン・ビューティー』のケヴィン・スペイシー。主演、共同脚本、監督の三役をこなし、渾身の映画を完成した。
  俳優の監督兼任作品は、オレ様系自己満足に陥りがちだが、ベテラン美術スタッフや有能な撮影監督を起用しがっちり手を組み、ハリウッド映画として十全の娯楽性を実現。歌と踊りも吹き替えなしで披露。50年代アメリカの粋とゴージャスが満喫できる前半は、お見事と言える。
  後半、放浪の末にボビーは「人は見た目で聞く」「自分の歌を歌えばよい」という突破口を見つけ出す。そしてかつて人気を博したステージに戻ってゆくクライマックスには、『華氏911』より力強い反戦の訴えがある。
  50年前のアメリカン・ショウ・ビズの面白みを現代に蘇生させ、同時に、変化の時代を生きる迷いも丹念に描かれ、贅沢と自分探しの感動が同時に味わえる。ハッピー・エンドの『ブギー・ナイツ』とも呼びたい、歴史を現代に蘇生した注目作である。

[2月26日より東京・シネスイッチ銀座他にてロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年3月号より]


ダブリン上等!(2003,英=アイルランド)
★★

  アイルランドの首都ダブリン。乱暴者のコソ泥レイフは、女を殴って小金を盗むコスカラいチンピラ。友人のジョンが、別れた彼女デイドラを中年でハゲの銀行員に奪われ逆上しているのを巻き込み、大金をせしめようと企む。レイフを追うオレ様系刑事ジェリーは、自分の活躍をTVの実録番組に特集させようとやる気満々。そこに平凡なバス運転手ミックや、「ヒゲ面」ゆえに引きこもり気味の少女サリーの人生が絡み合い……
  ケルト神話が示す「癒しの大地」であると同時に、ジョイスが描いた「出口なしの退屈」な国でもある、アイルランドのいまを、オフ・ビート的リズムで活写。一見関係ない人々の人生を、パズルのように組み合わせながら、クスクス笑ってしまうユーモアを交えつつ、ドラマを盛り上げる脚本と演出は見事。クラナドはじめアイリッシュ・トラッド音楽を巡るギャグにもニヤリ。山椒は小粒でピリリと辛い、こんな形容がふさわしい、映画通向けの隠れた名品だ。

[2月18日より東京・シブヤ・シネマ・ソサエティにてロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年3月号]


アレキサンダー(2004,米=独)
★1/2

 『グラディエイター』がCGと歴史スペクタクルの融合を実現して以来、ハリウッドは古代や中世を舞台としたスペクタクルがブーム。今回『プラトーン』などで社会派監督として知られるオリバー・ストーンが、古代ギリシャ時代に実在した歴史的大物、アレキサンダー(アレクサンドロス)大王の生涯に挑んだ。製作費200億円、イギリスのパインウッド・スタジオに豪奢なセットを建て、モロッコとタイで長期ロケを敢行。加えてバビロンなどの古代都市をCGで作り出した、新旧映画テクノロジーが混在する超大作。特に後半インドでアレキサンダー軍がゾウに乗ったインドの軍勢と戦う場面は、前代未聞の力業だ。
  物語はギリシャ悲劇の要素を多く織り交ぜつつ、アレキサンダーがマザコンのひ弱な少年から、戦場で誇大妄想的大王へと変貌してゆく新解釈。主演のコリン・ファレルは金髪に染め、繊細さと傍若無人さが混在する「美しいカリスマ」へと変身。ジョナサン・リース・マイヤースからクリストファー・ブラマーまで、脇を固める新旧スターの競演も豪華。随所に反戦やアジア文化への恐怖など、ストーン監督らしいこだわりも見える異色大作だ。

[2月4日より東京・丸の内ピカデリー1他全国ロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年3月号より]


タッチ・オブ・スパイス(2003,ギリシャ)
★★

  題名だけ見ると、気取った女が喜ぶオシャレな癒し系映画に見える。が、実は男の純情と夢をニクいくらいに突いてくる優れものだ。
  舞台はトルコの首都コンスタンチノープル(現イスタンブール)。ここは十字軍の昔から多様な文化が出会っては共存する”地中海のニューヨーク”。小学生の少年ファニス一家はギリシャ系の移民で、トルコとギリシャは隣国ながら歴史的に犬猿の仲だが、商いでにぎわう街はそんな政治とは無縁。ファニスの祖父が経営するスパイス屋には民族を問わず買い物に来る。
 料理の味つけには、人の心を動かし、宇宙の真理まで隠されていると孫に秘伝を伝授する祖父。かくしてファニスは天才的料理の才能を発揮。幼なじみでイスラム教徒の少女サイメと相思相愛の初恋に落ち、「あなたは料理して。私は踊るわ」と将来を誓い合う。
 しかし、ギリシャ=トルコ間にキプロス紛争が起こり、イスラムに改宗している祖父を残し、一家はギリシャ移住を余儀なくされる。新天地である祖国は言葉、習慣、料理の味つけなど、ファニス一家を「トルコ人」扱い…。挙げ句、「ギリシャでは男のコは料理しないのが普通」と、ファニスはキッチンへの出入りも禁じられる。「後から行く」とトルコに残った祖父は一向に到着せず、サイメとの手紙のやりとりも途絶え、彼はひとりで祖父の住む「故郷」に帰ろうと決意するが…。
 生まれ育った異国では幸福だったのに、祖国で自我を否定されるファニスの姿は切ない。彼の喪失感と”根無し草”感は、この地域固有の歴史を知らなくても胸に沁みるだろう。
 30年近く経て、独身の中年大学教授となった彼は初めて故郷に戻る。サイメとの再会、そしてラストの選択。思い出から引き離され、否定された少年時代の夢を回復しようとする姿にジワリと熱い感動を覚えるはず。
 自分の中の「少年」と再会させてくれる「郷愁」の物語。伏兵的佳作だ。

[2月4日より東京・渋谷Bunkamuraルシネマにてロードショー]
[集英社『週刊プレイボーイ』 2005年 No.8  2月22日号]


ビフォア・サンセット(2004,アメリカ)
★★1/2

  空前のお笑いブームだそうだが、意外にも男女コンビの若手芸人は見かけない。かつて男女漫才と言えばお笑いの華だった。コンビが結婚したり、離婚してからもコンビのままで笑いを取ったり、男と女のスケベ心や嫉妬心を、カラッとしゃべり倒し、日本全国に爆笑の渦を巻き起こしたものだ。
 そんな日本の笑いの伝統を知ってか知らずか、アメリカ=フランス連合男女お笑いコンビの痛快コメディがやってきた。旅先のウィーンで恋に落ちた作家志望のアメリカ青年とフランスの女子大生。日没から夜明けまでの短い恋を燃え上がらせ、半年後の再会を約束して別れる。しかし二人が再会したのは9年後。女の住むパリだった。「懐かしいね。お茶でもどう?」若い日の思い出にひたるひと時は、男と女の本音ぶっちゃけのマシンガン・トークの応酬へと発展、爆発してゆく。
 男は作家として成功し妻子持ち。女は人道援助家としてバリバリ働くキャリア・ウーマンだが男運はない。「どうしてあたしが惚れる男は、あたしを振ってすぐ結婚するのよ!」と絶叫。いま話題の”負け犬女”フランス版よろしく、私生活の不満をぶちまける。演じるのはフランスの美人女優、ジュディ・デルピー。『汚れた血』以来のファンは、柔らかさを増した美貌に惚れ直すこと必定。初めて見るキミは「30代でもこんな美人がいるのか!?」と目を見張るだろう。
 そんなジュディ相手に、所帯持ちの本音を語る男役はイーサン・ホーク。この頼りなさが女に持てるコツなのか!? と思うほど、女の話を聞きながら、自分の本音を切り出す間とタイミングが絶妙。このテクは現実の恋愛にも応用できそうで、研究の価値あり。
 二人の息の合った掛け合いは、お笑いコンビ顔負けの面白さ。思わせぶりなラストまで、80分という短さも心地良い。『スクール・オブ・ロック』のリンクレイター監督が放つ、実用性も兼ね備えた、出色の恋愛コメディだ。

[2月4日より東京・恵比寿ガーデンシネマにてロードショー]
[集英社『週刊プレイボーイ』 2005年 No.6  2月8日号]


きみに読む物語(2004,アメリカ)
★★

  1940年代、古き良きアメリカで繰り広げられる若い二人の恋と、現代で病の床にある老いた妻を愛する夫。『きみに読む物語』は、ふたつの純粋な恋が絡み合う、ピュアなラヴ・ストーリーだ。
  40年代のパートで主人公の青年ノアは陽気な材木工場の労働者。大学進学前の夏休みを過ごしに来た金持ちの娘、アリーに一目惚れ。強引にアタックし、ハートをゲット。しかし身分の釣り合わない二人は、アリーの両親の手で引き裂かれる。
  ノアは一年間毎日アリーに手紙を書くが、すべてアリーの母に握りつぶされてしまう。そこで彼は、アリーと夜のデートをした思い出の廃屋を買い取り、新しい立派な家へと、独力で修復する。家が完成すれば、アリーが戻ってきてくれると信じて。
  ある日アリーは偶然、新築なったノアの家を見つける。しかし5年の月日を経て、彼女には婚約者がいた。迷うアリーに母は自分の若き日の恋の思い出を語り、娘を思いとどまらせようとするのだが……
  監督は『ジョンQ 最後の決断』のニック・カサヴェテス。自分も俳優だった経験を活かし、きめの細かい演出を見せる。溜息が洩れるようなアメリカ南部の自然も見所の一つ。ピュアなラヴストーリーで、冬の心を温めたい。

[2月4日より東京・丸の内プラゼール他全国ロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年2月号より]


天井棧敷の人々(1945,フランス)
★★★1/2

  1840年代のパリ。「犯罪大通り」にやってきたガランスは、ヴィーナスのような裸身を見せ物にする芸人。女たらしの俳優ルメートル、内気だが情熱的なパントマイム役者バティスト、暗黒街の要人ラスネール、そしてモントルー伯爵と、あらゆる身分の男たちがその魅力に取り憑かれる。彼女への思いから、名優へと脱皮する男、犯罪に深入りする男、命を落とす男……すべての思いはラスト、街を挙げてのカーニバルで詩的昇華を遂げる。
  その昔『風と共に去りぬ』と並び「映画史上の最高傑作」の名を恣にした名作。ファム・ファタールのガランスを巡る男たちは、線の細い美男子からワイルドなイケメンまで、昔のいい男のオン・パレード。映画を見た後、誰が好みか友だちと語り合うのも一興。バティストを愛し続けるナタリーの可憐さも印象深い。
  そして何より、バローのパントマイムを筆頭に、20世紀後半のフランス演劇を牽引した名優たちが絶頂期に、名詩人プレヴェールが書いた、綺羅星の如き台詞を謳う名演をとどめた記録として、不滅の価値を持つ映画だ。

[1月15日より東京・シネリーブル池袋にてロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年2月号]


ネバーランド(2004,アメリカ)
★★

  ジェイムズ・バリは、イギリス文壇と演劇界の寵児。ある日、ケンジントン公園で、無邪気に遊ぶ男ばかりの4人兄弟と知り合う。面白いお話を聞かせてくれるオジサンに、少年たちは夢中になり、自宅に招待する。母のシルヴィアは夫に先立たれ、実母の援助も断り、貧しいながらも女手一つで、息子たちを必死で育てていた。
  少年たちの奔放な想像力に驚きつつ、バリは彼らを楽しませようと、冒険物語を次々と紡ぎ出す。そのイメージの奔流は戯曲『ピーター・パン』に結実。クリスマス・シーズン初演が決定する。
 そんなときシルヴィアが病に倒れる。家族を支えようと決断する長男ジョージの成長に、バリは少年が大人になってゆく瞬間を目の当たりにする。更にバリ自身は妻と関係が破局を迎え離婚…様々な苦渋を秘めつつ、『ピーター・パン』は初演の幕を開ける。
  だが客席にシルヴィアの姿はなかった。死の床に就く彼女のために、バリは特別な「ネバーランド」を準備する。それはシルヴィアが『ピーター・パン』物語のもう一人の主役、ウェンディとなり、旅立つ舞台でもあった。残されたバリは自らも大人になり、「父親」になる決断を下す。   現実の『ピーター・パン』成立の過程を大胆に改変した脚本は、筋金入りのファンから怒りを買うかも知れない。だが「大人になりたがらない少年」ピーター・パン誕生の裏には、病気が死に直結し、子供をに限らず多くの人が、呆気なく死んでいった時代背景があった。『ネバーランド』はファンタジーが悲劇の精神から生まれることを表現し、「夢を持たずには生きていけなかった、貧しい時代の切実な心」描いた作品なのである。
  キャスティングは、バリ役のジョニー・デップより、シルヴィアを演じるケイト・ウィンズレットが圧巻。日本では『タイタニック』のヒロインのイメージが強いが、実は彼女、現代イギリス演劇界の若手ナンバー・ワンとも言われる演技派。母・女・少女を併せ持つ「ウェンディ」的リアリティを見事に体現している。彼女の母親役は名作『ドクトル・ジバゴ』でヒロイン、ラーラを演じ世界中の映画ファンの心を奪ったジュリー・クリスティ。英国の新旧名女優の競演を彩る、4人の愛くるしい少年たちが、全編に明るさと軽快な楽しさを醸し出す。
 『ピーター・パン』好きは、ファンタジーの意義を再考するだろう。またこの話を子供の夢物語と敬遠していた人には、新たな視点を提示する注目作である。

[1月15日より東京・日比谷映画他全国ロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年2月号]


オペラ座の怪人[作曲:アンドルー・ロイド・ウェバー](2004,英-米)
★★

  19世紀パリ、華の社交場オペラ座の地下深くに巣食う、仮面を付けた謎の怪人。彼は歴代のプリマ・ドンナ(女性の名歌手)を魔性で支配していた……かつてホラー・ミステリーの古典とされた小説『オペラ座の怪人』は、80年代ロンドンで、ロック・オペラ(ミュージカル)として再生。日本でも劇団四季の上演などで、根強いファンを誇っている。その作曲者アンドリュー・ロイド=ウェッバーが、自ら製作したのが、この映画だ。
 TVのBGMなどで必ず耳にしているはずの名ナンバーが、原語で字幕付きで聞けるのは貴重。迫力の名曲の数々が、DVDやTV中継では伝わらない音響で体感できる。日本人による上演でも1万円以上取られる舞台を、安値で疑似体験するには、格好の作品になっている。
 俳優陣では『デイ・アフター・トゥモロー』の新星エミー・ロッサムが見事だ。端役からいきなり主役に抜擢され、芸術と恋の狭間で苦しむヒロインを好演。新人離れした実力を、遺憾なく発揮する。今後目の離せない女優だ。
 だが、映画として面白いかは疑問。全体的に広がりに欠け、こじんまりとした印象なのだ。
 場面は劇場と墓場の2カ所だけ。それでも劇場の舞台裏のセットをたくさん用意すれば、細かい場面転換を駆使し、変化に富んだ映像を見せられるのに、そういう映画向けの細かい工夫がない。結果、怪人が劇場内を縦横無尽に動き回る不気味さは皆無に近く、ドラマの面白みが半減している。
 舞台版では見せ場になる劇場炎上シーンも、外から燃え上がる劇場を撮った映像すらなくカタルシスがない。結局画面は最後まで単調。「大作を見た」という満足感は襲ってこない。  要するに作曲者が「舞台版に忠実な映画化を」とこだわっことが裏目に出た失敗作。舞台と映画の違いを製作者に納得させられなかった、監督ジョエル・シュマッカーの責任、と言うのは酷か。残念!

[1月29日より東京・有楽町 日劇1他全国ロードショー]
[集英社『週刊プレイボーイ』 2005年 Nos.3-4  1月18-25日合併号]


赤いアモーレ(2004,イタリア)


  医師ティモは美しいジャーナリストの妻と、裕福に暮らしていたが、子供を欲しがらない妻との生活に、不満を感じていた。ある日彼は、家の立ち退きを迫られている「イタリア」という名の貧しい女と出会い、鬱憤を晴らすようにレイプする。その後も彼は「イタリア」を訪ね続け、妊娠、堕胎苛酷すぎる運命が彼女を襲う。やがてティモは、やがて本気で「イタリア」を愛していると気付くが、時既に遅し。しかし愛の奇跡は15年後、EU統合後の21世紀に起こる…
  ペネロペ・クルスがヒロイン男の身勝手な愛情を押しつけられても、すべてを呑み込む「イタリア」の、痛々しい恋心を力演。随所に見られる十字架のモティーフ、ラストの奇跡が聖母信仰的なことも含め、カトリック映画色が濃厚なのがイタリアらしい。もっとも惨めなヒロイン像は、先進国から文化大国と崇められながら、政治・経済面では侮蔑され続けている、「イタリアという国」の象徴なのかもしれない。

[1月15日よりTOHOシネマズ系にて全国ロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年1月号]



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