Office NESHA presents movie guide
Nov./Dec. 2001

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
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ムッシュ・カステラの恋
血の記憶

One Point Critics
ハリー・ポッターと賢者の石/バンディッツ/Dr. Tと女たち/スパイゲーム/シュレック
スパイキッズ/アトランティス/UFO少年アブドラジャン
ムーラン・ルージュ/裏切り者
ソード・フィッシュ/ポワゾン/少年義勇兵/赤い橋の下のぬるい水



ムッシュ・カステラの恋(1999,フランス)
★★1/2

 つるつるハゲ頭にチョビひげ。社長さんなのに貫禄落ち着きゼロ。英語が話せず一流大卒の秘書に軽蔑され、家では少女趣味どっぷりのカミサンがやりたい放題と、情けないことこの上ない。風采の挙がらないこと、日本のオヤジそのまんま。

 こんなオッサンがおフランス製ラブ・ストーリーの主人公なのだ。フランス映画‖オシャレの公式を完全に壊す最終兵器、カステラ氏は、その凡庸さで見るものを唖然とさせる。

 だけどこのオジサン、どこか憎めない。頭の外見と学歴、外国語で悩んでいるあたりが、日本人の白人コンプレックスに通じるせいか、親近感すら覚えてしまう。

 このカステラ氏、英会話の個人レッスンをイヤイヤ受けさせられる。先生は売れない舞台女優。お決まりのコースでカステラ氏は恋に落ちる。

 設定だけ見ると何の新味もない話。しかし「こんなオヤジの恋がうまくいくならオレたちだって」という、男のさもしい欲望から、つい応援してしまいると、フランス映画らしいキメの細かい人物像が、だんだん心に滲みてくる。

 出てくるキャラ一人一人が、みんなまっとう。一生懸命生きているのに未来がない。漠然と不安を抱えつつ、弾けられずに生きている。そんな不器用な姿に共感してしまう。

 そして後半、カステラ氏は大変身する。「オレはオヤジだ、文句があるか!」と、自分の現状を受け入れたとき、明るい未来が開けてゆく。

 肩の力を抜いて生きれば、人間は変われるというメッセージが心地よい。それもハリウッド性のウソくさいハッピー・エンドとは違い、リアリティと夢物語が程よいバランスを保った幕切れに、心が和んでくる。

 これが当時35才の女性監督、アニエス・ジャウイが新人離れした手腕を発揮。軽快なコメディの運びで見せ、最後に勇気づけられる。こんな時代だからジンと来る、ちょっとイイ話なのだ。

 彼女イナイ歴二桁のキミには胸に染み入り、恋人たちには踏絵となる推薦作。ワザとらしくも、押しつけがましくもない、人生の応援歌である。

(12月22日より銀座テアトルシネマ他にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』2001年No.46, 11月13日号]

血の記憶(1999,イタリア)
★★

  イタリア人というと陽気でこだわらないラテンな民族。しかもオシャレで、人生を楽しむ民族。こんなイメージが強いだろう。

  だが長靴のように南北に長い国が、統一国家になったのは、今から百年ちょっと前のこと。ローマより南の地域は、北部より遙かに貧しく、人々の気質も荒い。

  そんな南イタリアの現実を鋭く突きながら、野蛮なまでに燃える血のたぎりをうねらせる映画の登場だ。

  軸になるのは、民族音楽の演奏家兄弟の確執。兄は誤って父を死なせた心の傷が癒えず、家族を養うために密輸や不法入国者の手引きに手を染めている。弟は恋人をレイプされた衝撃から麻薬に溺れ、犯罪の道にずぶずぶとはまってゆく。

  およそ救いのない話である。しかも二人を取り巻く南イタリアの自然は、緑に乏しく荒涼とした岩肌をむき出している。日本人が想像する、明るく楽しいイタリアの姿は、ここにはない。

  だが、男も女も、出てくる人々の面構えが実に濃く、深い。タフな現実に負けずに生きてゆく、エネルギーに満ちあふれている。

  そして彼らが演奏する音楽に全身が躍動する思いがする。フラメンコのリズム、サンバに通じる躍動感、ポルトガルの歌のような暗い情熱が、混沌の内に滔々と流れ出す。火山から噴き出すマグマのように、粘りと燃焼を込めつつ、灼熱の世界を展開するのだ。

  こうして、我々が「ラテンなノリ」と漠然と呼んでいるものの本質が見えてくる。どうしようもない現実の苦しみを渦と巻かせ、解放と自由を求める魂と肉の叫びなのだ。

 『トレインスポッティング』にも通じるストリートの悲しみを、フィジカルな力に結実させたパワーが素晴らしい。土着の原始的パワーとモダンな洗練が、ギリシャ悲劇のごとき感動に昇華する。近年出色の力作である。

  この底力は、キミの心に眠る獣を目覚めさせることだろう。晩秋の寒さを吹き飛ばす熱さに触れよ。

(11月10日より東京渋谷・シアターイメージフォーラム他にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』2001年No.48, 11月27日号]



One Point Critics


ハリー・ポッターと賢者の石(2001,米―英)
★★★1/2

 意外なほどに手堅い作り。マギー・スミスはじめイギリス舞台人の芝居がきちんと拾われていて、全編を引き締めている。ハリウッドのイギリス・コンプレックスがいい方に転んだのだろう。原作を読んでいないので比較できないが、2時間半を越える長尺をダレずに楽しんだ。これなら子供たちが夢中になっても安心である。。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年12月13日号]

バンディッツ(2001,アメリカ)
★★★

  60年代末から70年代前半のハリウッドにあった、独特の気怠さを湛える犯罪映画テイストが、現代に蘇る。悪役転向後快調なウィリスが、曲者俳優二人とドラマを巧みに引っ張る。造形力の高い撮影、緻密な音響編集も酔わせる。もう少し短くて、デジタル編集の粗がなければ高得点を献上したのだが。趣味のよい映画だ。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年12月13日号]

Dr.Tと女たち(2001,アメリカ)
★★1/2

  この監督は元来メジャー系で問題作を発表してき人。根は良い意味で商業監督なの だ。今回は原点に戻り、スター俳優の力を引き出す、上出来のコメディになっている。 円熟と呼ぶには味に乏しいが、娯楽のツボは押さえている。なのにどこか散漫な印象 を覚えるのは、毒のない展開ゆえか、こちらの高望みか。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年12月13日号]

スパイ・ゲーム(2001,アメリカ)
★★

  料理の仕方で面白くもつまらなくもなる話。レッドフォードが定年を迎えるスパイを好演するも、未整理な脚本をダメ監督が更に混乱させ、頭の悪い編集者が拍車を掛けた。映画の呼吸が終始乱れ、見せ場も散発的効果に留まる。シャーロット・ランプリングをベルリンのエピソードに起用したのは『愛の嵐』へのオマージュ?

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年12月13日号]

シュレック(2001,アメリカ)


  これが全米大ヒット?米国の子供がかわいそうだ。話は最低。語り口はヘタ。極めて悪趣味。独創性欠如。メッセージは欺瞞的。3DCGは使い方を間違えて難点を露呈。ボイス・キャストは空回り。後味悪い。なんとかいい所を探そうと努力したが、ものの見事に徒労に終わった。以上、非常に控え目に書きました。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年12月13日号]

スパイキッズ(2001,アメリカ)
★★1/2

  60年代007シリーズに代表される、手作り感覚スパイ・アクションを、現代に甦らせることに成功。「遊びに徹するには子供を主人公とすべし」という、最近忘れられがちのセオリーが、今も有効であることが証明された。おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがある。童心に返りたくない人にはお勧めしない。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年11月28日号]

アトランティス(2001,アメリカ)

  青がきれいでした。『天空のラピュタ』のパクリですから。宮崎は偉大だ。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年11月28日号より]

UFO少年アブドラジャン(ウズベキスタン)

 おバカというよりノンビリ、ほんわかというよりまったり。狙った味かは疑問。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年11月28日号]

ムーランルージュ(2001,アメリカ)
★★1/2

「プラシド・ドミンゴも出てます」

 オペラとMTVを手懸けるラーマン監督が、全編セット撮影で放つ、からくり見せ物芝居。オージー・ビーフを思わせる過剰なまでの作り込みとバイタリティが、これでもかと押し寄せる。気に入れば最高に楽しめるミュージカルだが、力コブの入り具合に息苦しさを感じる向きもありそう。パリの香りは微塵もありません。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年11月13日号より]

裏切り者(2001,アメリカ)
★1/2

「真面目ならいいってものでは…」

 画面が物理的に暗くて、目が疲れた。ウォールバーグがマット・デイモンそっくりのメイクで出てきて驚くほかは、視覚的に楽しめる要素が皆無。脚本家と監督たちは社会の不正を真剣に暴いているつもりのようだが、芸がなさすぎる。志だけでは映画はできないのだ。相変わらず演技派=汚れ役のつもりでいる俳優陣も不発。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年11月13日号]

ソード・フィッシュ(2001,アメリカ)


「トラボルタ・ファンならどうぞ」

  そうでなければ辛い。発想とキャスティングだけでは映画はできないという見本。トリッキーな話ではなく、単に脚本家が無能で話が書けないだけ。演出のイロハも知らない監督の、ことごとくツボを外した作りに呆れた。プレイメイト扱いのハル・ベリー哀れ。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年10月28日号より]

ポワゾン(2000,アメリカ)

「ジョリー・ファンでもこれは…」

  世界が狭くなり、階級間の風通しが良くなった現代。女性への幻想が消え、悪女伝説も絶命した。過去の名作もいまじゃ出会い系サイトの痴情事件並み。こんなヒロイン、魔性の女どころか、金目当てよりタチの悪い地雷女。だまされるダメバカ男もろとも、絶滅してほしい。

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年10月28日号]

少年義勇兵(1999,タイ)
★★

  監督は親日家だとか。そこが作品の歯切れを悪くさせたか。気持ちは分かるが。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年10月28日号]

赤い橋の下のぬるい水(2001,日本)
★★

  糖尿インポのイマヘイの艶笑話。独特の脱力感は人好き好き。パワーはない。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年10月28日号]



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