Office NESHA presents movie guide
Nov.-Dec 2004

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
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スーパーサイズ・ミー
岸辺のふたり
ターミナル
ボン・ヴォヤージュ
ソウル・サヴァイヴァー
Mr. インクレディプル
ザ・ゴールデン・カップス ワンモアタイム
ハウルの動く城
コニー&カーラ
ニワトリはハダシだ
80デイズ
ビハインド・ザ・サン



スーパーサイズ・ミー(2004,アメリカ)
★1/2

  きっかけは日本でも報道されたマクドナルド訴訟。「肥満体になったのはマックのハンバーガーのせいだ」と、米国のティーン・エイジャーの女の子二人がマックを訴えたが、提訴自体が棄却され、テレビでマックの広報官が”我が社の製品はすべて安全でヘルシーだ”と声明したという。
  そこでCM界で活躍中の監督、モーガン・スパーロックは、自分を被験者として、「一ヶ月マックで売っているものしか食べなかったら、人体はどうなるか?」実験を始める。その記録が『スーパーサイズ・ミー』だ。
  学生時代はフットボールなどで活躍したモーガンは、典型的なアスリート体型。普段から有名チェーンのファースト・フードはほとんど口にしないという。そんな彼がマックだけを一ヶ月食べ続けるモーガンの姿を見ていると、だんだん気持ち悪くなってくる。現に20日目前後でモーガンの内臓には異常が出て、ドクター・ストップがかかる。ホラー映画顔負けの恐怖である。
  同時に映画はマックのCMや宣伝の実態を分析し、大企業が自社商品を買わせるために、どう消費者を洗脳して行くかを、つぶさに見せる。
 コンビニ食と牛丼漬けのあなたは、一度見る価値のある一本だ。

[12月25日より東京・渋谷 シネマライズにて全国ロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年1月号より。一部修正]


岸辺のふたり(2001,オランダ英)
★★-★★★★1/2

  山村浩二の『頭山』を抑えて、二〇〇一年アカデミー賞短編アニメーション賞を、受賞した作品が、二〇〇二年夏、広島国際アニメーション=フェスティバルで上映された。題名は『岸辺のふたり』(★★★★1/2)。監督はかつて『お坊さんと魚』で、同フェスティバル広島賞を獲得した、オランダのマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット。
 セピアの画用紙に木炭で描いたようなパステル画に、名曲『ドナウ川のさざなみ』が流れ、ノスタルジックな世界が見る者の心をつかむ。わずか8分間の中に、ある女性の一生を凝縮し、奇跡の「再会」のラストは真の芸術作品だけが持つカタルシスを生み出す。審査員も観客もこの映画を愛し、広島はグランプリと観客賞を贈った。
 その後日本では映画祭などでスポット上映され、アニメ・ファンや文化映画の批評家が激賞。感動のさざなみは広がり始める。善く二〇〇三年、まずアニメを元にした絵本が刊行。その後この文字通り「珠玉の名作」一作品だけを収録したDVDが、一八〇〇円で発売され、異例の売れ行きを示す。絵本・DVDに触れた人から「是非スクリーンで見たい」という要望が、静かに湧き上がってくる。
 テレビ・スポットが打たれたわけでもない。雑誌で大特集が組まれたわけでもない。インターネットの掲示板に、膨大な書き込みがあったわけでもない。そんな騒ぎ方は、『岸辺のふたり』にふさわしくないと、作品に感動した人は、分かっていた。ひたすら口コミで、愛情の温かい輪は、確実に広がっていったのだ。
 そして遂に二〇〇四年末、興行サイドの英断により、『岸辺のふたり』は入場料金八〇〇円で、東京でロードショーされる。併映の『お坊さんと魚』(★★★★1/2)『掃除屋トム』(★★)は共に未ソフト化。『お坊さんと魚』も、コレルリの『ラ・フォリア』を用い。変奏曲の展開とドラマの変容が完璧に融合した傑作。上映時間を合計しても17分。劇場では3作品を上映後、短い休憩を挟み『岸辺のふたり』だけをもう一回上映するという。「見終わった瞬間に、すぐもう一度見たくなる作品」という評判を受け、変則的だが良心的な上映形式が採られる。
 物量宣伝のシネコン大作と、マニア頼みのミニ・シアターに二極分裂する日本の映画興行界で、サイレント・マジョリティが、映画ビジネスを動かし、一本の短編映画を劇場公開まで押し上げた。『岸辺のふたり』にはそれだけの、映画の恩寵とすら呼びたい感銘がある。日本全国の映画館で公開されることを、静かに待ちたい。

[12月18日より東京・新宿 テアトル・タイムズスクエアにてモーニング&レイトロードショー]
[『キネマ旬報』 2005年1月上旬号、メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年1月号を再構成]


ターミナル(2004,アメリカ)
★★★1/2

  胸弾ませて海外旅行に出かける。日本の税関を通ると、目的国の税関を通るまでは、国籍の真空地帯「ノー・マンズ・ランド」。その真空地帯にいる間に、パスポートが失効してしまったら? パスポートのない人間には、目的国も自国も入国を許可しない。選択肢は一つ。状況が変わるまで、国際空港の中で暮らすこと……
  わざとらしい話に見えるが、現実に90年代前半、アフリカ人がロシアで入国を拒否され、モスクワの国際空港で一年以上生活していたことがある。事実は小説より奇なり。『ターミナル』はリアリティ抜群の映画なのだ。
  トイレから食堂、シャワー、警察機構に病院、果ては教会まで。大空港には生活に最低限必要なものは、すべて揃っている。けれどほとんどの人にとっては、短時間で通り過ぎる場所。英語が話せない東欧人が、何ヶ月もそこにいても、誰も気にしない。空港で働いている人を除いては。
  入国管理官は、ヴィクトルが空港から去るよう、次々手を編み出す。だが彼はくそ真面目に、正規入国し、ニューヨーク観光をすることにこだわる。空港の裏側で働くマイノリティたちと仲良くなり英語を覚え、合法的に金を稼ぐ方法まで身につけ、彼はニューヨークJFK空港の”名物男”となる。
  新しい友人の恋のキューピッドを務めたり、密輸業者と勘違いされた男の通訳を買って出て窮地を救ったり、ヴィクトルの空港生活は波瀾万丈。自らもキャビン・アテンダントのアメリアと恋に落ち、空港ならではの無料豪華レストラン・ディナーを楽しむ。その時、彼は初めて正規入国にこだわる理由を打ち明ける。そこには20世紀後半のヨーロッパ史が生んだ、ささやかだが切実な希望の物語が隠されていた……
  トム・ハンクスは、無色透明な存在感のなさを武器に、演技力で役柄にリアリティを吹き込む名優。今回は『フォレスト・ガンプ 一期一会』からワザとらしさを抜いた感じの芝居を披露。空港幽閉という不条理劇になりかねない物語に軽さをもたらし、愛すべきキャラクターを創出。アメリア役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、『天国の口、終りの楽園。』のディエゴ・ルナなど、民族色豊かで曲者揃いのキャスティングが、映画に奥行きを生み出す。
  そして些細な事件の連続を、笑いと感動満載のドラマに仕上げた、スピルバーグ監督の手腕はさすが。オチの見当はつくのにクライマックスでハラハラ。いつの間にかヴィクトルを応援してしまう。そして全編は、感動のクリスマス・ムーヴィーとして幕を下ろす。
  まっすぐ生きること。希望を捨てずに努力すること。仲間を大事にすること。そして人を信じること。荒んでいる現代の大人たちに、大切なことを思い出させてくれる、スピルバーグ監督からのクリスマス・プレゼント。アニメばかりが今年の正月映画にあらず。

[12月18日より東京・有楽町 日劇1他にて全国ロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2005年1月号より]


ボン・ヴォヤージュ(2004,フランス)
★★★

  今年の映画界はアニメに韓国映画、CGハリウッド大作が席巻。どうもヨーロッパ映画は旗色が悪かったが、正月に一気に失地回復するフランス映画の大作がやってきた。
  第二次大戦中の1940年、ナチス・ドイツのパリ入場前夜。フランス政府は南部ボルドーに居を移す。他にも上流階級の人々から核の研究をするユダヤ人科学者にコソ泥まで、あらゆる階層の人が、小さなボルドーの街に殺到。フランス降伏までの36時間に、壮大なロンドを繰り広げる。
  国の運命が決まるという決断の時なのに、首相は愛人の映画女優を連れてホテルに逗留。そのワガママ女優は、一番贅沢させてくれる男を求めて、複数の男を国籍問わず手玉に取る。ユダヤ人科学者の若い女助手は、尊敬の念の内に淡い恋心を抱き、彼女に一目惚れしたコソ泥は、命懸け逃避行のドライバーを買って出る…
  歴史の知識が皆無の人にも、分かりやすい、スピード感ある脚本は見事。フランス映画らしく、階級も目的も異なる人の人間関係には、あらゆる所に恋の駆け引きが絡む。パニックを起こしながら駆け回る人々の姿は、当人が真剣になればなるほど笑え、コメディとしてもイケる。更にカウント・ダウンもののスリルと、当時のクラシック・カーが繰り広げるカー・アクションまで、娯楽映画の要素が満載だ。
  イザベル・アジャーニ、ジェラール・ドパルデュー、ヴィルジニー・ルドワイヤンなど、新旧スターがズラリと顔を並べ、映画スターのオーラをぶつけ合いながら、メリハリのきいた演技を披露。重い題材を軽やかに、スピーディーに見せてくれる。全編を彩るファッションや装置も豪華である。
  フランス映画が底力を発揮すると、こんな面白い映画ができるのだ。「今年の正月はガキ向けアニメばっか」と溜息ついてるキミにイチオシの一本。クリスマス、正月に最適な、大人のデート・フィルムは、これだ。

[12月4日より東京・日比谷シャンテシネにてロードショー]
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 Nos.51/52  12月23,30日合併号]


ソウル・サヴァイヴァー(2004,アメリカ)
★★★

  テネシー州メンフィスと言えばプレスリーを生み出した街として有名だが、大小のソウル・ミュージシャンが活躍し、レコーディングも盛んに行われた、もう一つのソウル音楽のメッカ。『ソウル・サヴァイヴァー』は、今なお現役のソウル・ミュージシャンのスーパー・リユニオンを収めた、貴重な記録だ。『黒いジャガーのテーマ(シャフト)』でメガ・ヒットを生んだアイザック・ヘイズを筆頭に、「もうひとりのキング」と呼ばれたルーファス・トーマス(撮影後2001年没)、かつてダイアナ・ロスと「シュープリームズ」の一員として世界を魅了したメアリー・ウィルソン、ファンキーなR&Bでカリスマ性を発揮するウィルソン・ピケットなど、錚々たるメンバーが一堂に会する。全編は関係者・当事者が往年を振り返るインタヴューと、ライヴ映像だけで構成。若手ミュージシャンにリスペクトを語らせるような小細工は一切なし。まさに生き続けているソウルの”今”が、ストレートにスクリーンから弾け飛ぶ。

[12月25日より東京・ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズにてロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年12月号]


Mr.インクレディプル(2004,アメリカ)
★★1/2

  『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』と名作3Dアニメの名門ピクサー。しかし前作『ファインディング・ニモ』は、アカデミー賞狙いで技術とスピードを強調するあまり、乱暴な脚本とデリカシーのないドラマが、ファンを失望させた。そのピクサーが最新作で、人間が主役の3Dアニメに初挑戦。監督は傑作カルト・アニメ『アンアン・ジャイアント』のプラッド・バード。名門の名誉挽回なるか?
 その昔、数多くのスーパー・ヒーローが市民の危機を救っていた。しかし戦いで街は破壊され、一般市民は巻き添えで怪我人続出。「スーパー・ヒーロー不要論」が叫ばれ、彼らは”失業”、普通の人間として生活することに…子供の頃ヒーローものを見て、誰もが一度は抱いたはずの疑問を突いた、オープニングは技ありと言える。
 元ヒーローの一人、Mr.インクレディプルは、スーパー・ヒロインと結婚。やはり特別な能力を持った子供が生まれ、「平凡な」人間生活を送ろうと四苦八苦。そんな中お父さんだけは、過去の栄光が忘れられない。夜中にこそこそヒーローして、小さな悪を退治する。その情けなさは失笑もの。そして意外な悪の登場でヒーロー復活、更に家族揃ってスーパー・ファミリーが誕生。怪物ロボットを倒す後半は、今回もスピード感満載で一気に見せる。
 ただ、3Dアニメで人間が精巧に描いたことが、スーパー・ヒーローというアナクロな面白味を減じている感も。「これなら実写でやれば?」と疑問が湧いてくるのだ。ドラマは良く言えば堅実。悪く言えば『スパイキッズ』に似た展開が多く、技術で実験した分、物語は守りに終始した印象が残る。1時間55分という上映時間も長い。  娯楽映画としては見て損はしない、手堅い合格点の出来映えではある。だが天下のピクサーだからこそ、ドラマや感動で更なる高みを見せて欲しい。3Dアニメも草創期を終え、次の展開を模索する時期を迎えているのだから。

[12月4日より東京・丸の内ピカデリー1他にて全国ロードショー]
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 No.49  12月9日号]


ザ・ゴールデン・カップス ワンモアタイム(2004,日本)
★★★

  日本では60年代半ば、本牧は米軍基地のそばで不良たちのR&Bバンド、ザ・ゴールデン・カップスが生まれた。時あたかもグループ・サウンズ・ブーム。カップスはGSとしては後発のバンドとしてメジャー・デビューし、『長い髪の少女』などヒットを飛ばしたが、彼らのスピリッツは常にR&Bにあった。『ザ・ゴールデン・カップス ワンモアタイム』は、前半を当時の本牧という「日本の中のアメリカ」を証言で検証。後半はカップスのリユニオン本牧ライヴの映像。60近くなっても、トンガリながらプレイを続ける、日本の「永遠の不良オヤジ」の熱さにも、是非一度触れてみよう。

[11月20日より東京・テアトル新宿にてロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年12月号]


ハウルの動く城(2004,日本)
★★★★

  宮崎アニメ待望の最新作は、『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』系、大空の青さが印象的なファンタジー。最近の『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』に、重い息苦しさを感じていたキミには、待望の一本の誕生だ。
  舞台は19世紀イギリスを思わせる架空の都市。美男子ハウルに一目惚れした18才の平凡な少女ソフィーは、その恋が元で、荒れ野の魔女に呪いをかけられ、90才の老婆に姿を変えられる。ところが偶然から、地上を歩き回るハウルの住処「動く城」にすむことになる。見知らぬ土地を旅して回り、呪いをかけられ不幸なはずのソフィーは、世界の広さを知り、生きる喜びを満喫する。しかし空飛ぶ魔法使いハウルの秘密を知り、ドラマは神秘的冒険へと展開してゆく。
  映画の冒頭、ハウルとソフィーが歩いて空を飛び回る場面から、全編は宮崎アニメのトレード・マーク、飛翔の快楽が満載。物語の背景に、重厚なメカが飛び交う戦争を配置。戦争嫌いの弱虫魔法使いハウルが、その陰で繰り広げるもう一つの「戦い」に、『宇宙戦艦ヤマト』以降の日本アニメに対する、宮崎駿の(過去の自作も含めた)異議申し立てが見える。それが従来の宮崎アニメと違う、新しい「戦争と個の関係」の哲学を感じさせる。
  ハウルの弟子の少年マルクル、火の悪魔カルシファー、歩くカカシのカブなど、明るい笑いを振りまく脇役も魅力的。近年宮崎アニメになかった爽快感と軽快さに胸が躍る。さらにラスト30分、老婆ソフィーが時間を逆行するにつれ、過去の宮崎アニメのヒロインを遡行するように姿を変えてゆくのに、昔からのファンは驚愕間違いなし。
  声優陣は今回がピカイチ。ヒロイン、ソフィー役の倍賞千恵子の声による演じ分けにうなり、キムタクの「弱虫イケメン魔法使い」ぶりもリアル。荒れ野の魔女役美輪明宏の実力には脱帽だ。
  深読みして良し。軽く見て面白い。見所満載のフレッシュな傑作。拍手!

[11月20日より東京・日比谷スカラ座1他にて全国ロードショー]
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 No.47  11月23日号]


コニー&カーラ(2004,アメリカ)
★★★1/2

  小学校時代からブロード・ウェイ・ミュージカルの舞台を夢見てきた親友コンビコニーとカーラ。しかし時代は移り、二人はしがない営業のドサまわりの日々。ところが偶然殺しの現場を目撃し、マフィアに命を狙われる身に。逃亡の末たどり着いたLAで、身を隠すため女装のゲイ(ドラァグ・クイーン)に化けたらクラブで大受け。一躍ゲイ・クラブのステージの花形スターになるのだが……
  ヒロインは『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』のヴァルダロス。今回はコメディエンヌの才能が本格的に開花。時代遅れな自分たちの好みが、意外なところで支持される歓びと戸惑い。正体を隠すための苦労。そしてゲイの仲間の哀しみへの共感、ノン気の男に恋する苦悩と、大爆笑の内にじんと来る。
  そしてミュージカル・ファンなら、80年代以降のミュージカルの流れと、ゲイ・カルチャーの関係を巧みに織り込んだ展開に唸ること請け合い。ラストで『雨に歌えば』のデビー・レイノルズが自ら登場し歌う僥倖! この秋最大の、幸せになれる音楽コメディだ。

[11月13日より東京・日比谷スカラ座2にてロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年12月号]


ニワトリはハダシだ(2003,日本)
★★★

  日本映画界最長老の一人、森崎東監督。世の中のキレイごとを引っぺがし、人間と人間が汗を飛び散らせながらぶつかり合う世界は、近年若い映画ファンに再発見され、注目を浴びている。
  その森崎監督が久々に実話の映画化に取り組んだのが『ニワトリはハダシだ』。検察庁の汚職隠しに、15才の養護学校生徒、サブが人身御供にされそうになるという、ショッキングな内容だ。舞台は舞鶴。日本の20世紀の陰の歴史にも踏み込み、在日朝鮮人、障害者を踏みつけにする、社会の構造があらわになる。
  学校の先生直子は、若い新米刑事を巻き込み、サムを救おうとするうちに、事件に自分の父親が関わっていると、衝撃の事実を知る。そしてサムの両親を演じる原田芳雄と倍賞美津子が圧倒的存在感で、映画の後半の爆発力を支える。社会の不正をを青筋立てて糾弾するのではなく、笑いと共に権力に屈することなく戦いを挑んでゆく庶民のエネルギーが、映画をぐいぐい引っ張る一級のエンタテインメントになっている。

[11月13日より東京・渋谷 シアター・イメージフォーラムにてロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年11月号より改変]


80デイズ(2004,アメリカ)
★★

  ヴェルヌの古典的冒険小説『80日間世界一周』の再映画化。フォッグ卿が発明アカデミーと「80日で世界一周してみせる」という賭けをして、気球や汽車など、懐かしい当時の「ハイテク」を駆使して旅をする、という大筋は踏襲。しかし昔なら「秘境を旅する観光映画」として楽しめた話を、これだけ海外旅行が簡単現代に、忠実に映画化して面白いわけがない。
  そこで今回はお供のパスパルトゥにジャッキー・チェンが挑戦。原作にはない、中国のパートを書き下ろし、冒険活劇にカンフー・アクションを取り入れ、アナログなコメディ活劇に仕上げることに成功した。
  このところスタント・アクションに移行しつつあったジャッキーも、今回本領発揮。兄貴分サモ・ハンの出演も含め、香港時代の蓄積と、ハリウッドで獲得した若々しさを同時に全開して楽しませてくれる。シュワちゃんのアラブの王様も含め、懐かしくて温かい、スロー・フード的癒しの冒険アクションだ。

[11月6日より東京・渋谷東急他全国ロードショー]
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年12月号]


ビハインド・ザ・サン(2001,ブラジル-仏)
★★★

  1910年のブラジルの貧しい田舎。二軒のサトウキビ農家、プレヴィス家とフェレイラ家が隣接している。両家は古くからのしきたりに従い、相手の家の跡取りを殺した方が、境界線付近の領地を獲得でき、より多くの収穫と収入を得られる。その対決は決闘のような正々堂々としたものではなく、暗殺もどきのゲリラ的不意打ちと定められている。両家の跡取りは、常に殺される恐怖と、兄弟を殺された憎しみの中を生きている。
  実に前近代的で野蛮な風習は、貧困に苦しむ南米ブラジル独特の雰囲気をたたえている、ところがこの物語、原作は「ヨーロッパの火薬庫」バルカン地方の小国、アルバニアで書かれた小説。それに感動した『セントラル・ステーション』のウォルター・サリス監督が、わざわざ設定を母国ブラジルに舞台を移し映画化した意欲作なのだ。
  思えば最近のイラク戦争に至るまで、国家レベルの戦争だって、要は権益目的の陣取り合戦の殺し合い。つまりこの映画の両家の殺戮の応酬は、時代や文化の相違を越え、戦争の本質、社会の普遍的問題点を突いているのだ。その点で、単にブラジルの貧困と因習の悲劇を描くに留まらず、『華氏911』より普遍的反戦映画にもなっている。
  鮮やかな南米の太陽と、赤茶けた大地、へばりつくように生える木、そして深さを感じる青空……映像は原色や白と黒を駆使したコントラストで冴え渡る。そんな土地を訪れる兄妹の曲芸師二人組。妹クララとプレヴィス家の次男トーニョの恋。彼の幼い弟パクーは、クララに絵本をもらうが、宝物にするが、実は字が読めないので、絵を頼りに自分でお話を紡いでゆく。
  全編は「ここから逃げたい」という若者たちの焦燥感と、それを許さない貧しさと因習のせめぎ合いで、泥臭さと緊張感に漲っている。
 100年前の若者の苦悩が、現代の焦燥感と重なり合い、不思議で重い衝撃と感動を生む、硬派な映画である。

[11月6日より東京・新宿武蔵野館にてロードショー]
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 No.40  10月12日号]


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