Office NESHA presents movie guide
Dec. 2003- Jan. 2004

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
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ギャンブル・プレイ
気まぐれな唇
ニューオーリンズ・トライアル
25時
かげろう
タイムライン
.ルビー&カンタン
10ミニッツ・オールダー イデアの森
パリ・ルーヴル美術館の秘密
イン・アメリカ 三つの小さな願いごと
連句アニメーション 冬の日
ラストサムライ/MUSA―武士―



ギャンブル・プレイ(2003,英―仏―カナダ―アイルランド)
★★1/2

  南仏のリビエラで薬漬けの日々を送る、落ち目のギャンブラー、ボブは難民少女アンと出会い、起死回生の犯罪計画に打って出る。狙うはモンテカルロのカジノ。獲物は金庫の現金ではなく、カジノ内に飾られた有名絵画。一瞬で無数の絵を盗む離れ業を実現しようと、ボブは架空の現金強奪計画をでっち上げ、ニセ情報をわざと警察にリーク。そこに本当にカジノの金庫を狙う強盗たちも参戦し…
 『クライング・ゲーム』のニール・ジョーダン監督は、フランス犯罪映画の佳作『賭博師ボブ』をベースに、現代的スリルに満ちたゲームを展開。『シン・レッド・ライン』の名優ニック・ノルティ、『ニキータ』のチェッキ・カーリョ、『イングリッシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインズを起用し、プチ『オーシャンズ11』の趣を持つ、スタイリッシュな犯罪ドラマに仕上げている。

(1月31日より東京・銀座シネパトスにてロードショー)
[メディアファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年3月号より]


気まぐれな唇(2002,韓国)
★★1/2

  セックスは体を使った対話である。この真理を多くの男は理解していない。
  セックスは対話だから、相手が変われば、当然セックスも変わる。男の攻め方も、女の反応も変化する。ベッドでのすれ違いは、心のすれ違いの現れ。心が噛み合わないセックスは、相手の体を使ったオナニーにしかならない。そのオナニーを日常生活でやらかすと、ストーカーや、別れた恋人を追い回す粘着男になり下がる。
  女と面倒な話をしていて、「とりあえず寝ちまえば、なんとかなる」と考える男たちは、この事実が分かっていない。つまりセックスについては中学生レベルの子供なのだ。
 『気まぐれな唇』はセックスを男女の対話として撮ることに成功した、画期的作品だ。
  この映画で売れない役者ギョンスは、二人の女と寝る。一人は先輩の彼女ミョンスク。ギョンスは軽い遊びのつもりだったのに、女に火が点き、ストーカーの一歩手前まで追いかけられゲンナリ。そんな心のすれ違いが、セックス。シーンの二人のポーズや表情で、演技としてビシッと表現されるのにビックリする。
  もう一人の相手は電車で偶然知り合ったソニョン。彼女は簡単にギョンスになびかない。何とか彼女をものにしようとする内に、ギョンスは本気で惚れてしまう。遊びのセックスでは冷静なのに、本命の女相手には「ほ〜ら、いいだろ」と腰を回して勘違いの攻めをする姿は爆笑ものだ。
  挙げ句に彼は本物のストーカーになってしまう。その情けなさに、「人間は自分がされると迷惑なことを、知らず知らず別の誰かにしてしまう」「性欲の処理を誤ると、人間はバカへの道を突き進む」という、普遍の真理が現れる。
  バカ男のセックス物語に笑っている内に、自分の恋愛スタイルとセックス・ライフを見つめ直さずにはいられない快作。彼女との間がギクシャクしているキミの、デート・ムービーにお薦め。ただし、その後二人の関係が気まずくなっても、一切責任は持たない。
(1月31日より東京・テアトル新宿にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 No.5  2月3日号のオリジナル原稿]


ニューオーリンズ・トライアル(2003,アメリカ)
★★★

  夫を銃乱射事件で亡くした妻が、損害賠償を求めて銃器メーカーを提訴。銃器産業側は終始容疑を全面否認し続け、訴訟は遂に法廷で争われ、陪審員の評決を仰ぐこととなった。
  銃器メーカーは結託して、やり手の「陪審コンサルタント」フィッチを雇い入れる。彼の仕事は、陪審員候補者全員のリストを手に入れること、そのなかから銃規制に賛成する人間を洗い出し、陪審員候補者リストから消すこと、そして残った陪審員に、どんな汚い手を使ってでも、「メーカーは無罪」の評決を出させることだ。
  ところがこのリストに、一人だけ素性をどうしても洗い出せない男の名がある。ニコラス・イースター。ゲーム・ショップ店員。この男が12人の陪審員に紛れ込んだ。
  開廷の日、フィッチと原告(訴えた女性)側弁護人ローア双方のもとに、匿名の封筒が舞い込む。「ジャッジ・フォー・セール」…陪審員の評決を一千万ドル(十億円)で売るというのだ。誰が仕組んだ罠だ? イースターか? かくしてローアとフィッチ、そして謎の人物三つ巴の、「評決売買ゲーム」が幕を開ける。
  フィッチはハイテク機器を駆使し、隠し撮り、おとり、果ては手の込んだ脅迫も辞さず、陪審員たちを自分の手の内に落としてゆく。一方のローアは裁判の行き詰まりに悩み、評決を「買う」ことを真剣に考え始める。果たしてこれはイースターの単独行動なのか? 彼の狙いは本当に金なのか?
  グリシャムの原作で提訴される被告はタバコ会社だが、映画では銃器産業に変更。原作の要素を生かしつつ、銃の闇取引や販売報奨制度、軍用銃器を一般人に販売している実態を織り込んだ脚本は、近年のハリウッド映画では出色。テンポ良い展開で一気に楽しませる演出も快調だ。
  この映画で「陪審コンサルタント」フィッチを演じるのはジーン・ハックマン。今エラソウで傲慢な白人を演ったら彼の右に出るものはいない。このキャスティングだけでも、映画的魅力は抜群。しかも彼に対抗して、銃規制に向けて歴史的判決を勝ち取ろうとする弁護士ローアはダスティン・ホフマン。意外にも初共演となる二人が散らす火花は壮観。
  二人の若手演技派スター、ジョン・キューザックとレイチェル・ワイズは好感度が高い演技を見せ、それが物語の謎を一層深めてゆく。一方で『フラッシュダンス』のジェニファー・ビールスが顔を見せるのは懐かしい。
  結果、ハリウッド映画の分かりやすさとテンポ感がプラスに働き、社会派娯楽サスペンスの快作が完成した。グリシャム物としても一二を争う出来映えと言える。

(1月31日より東京・日比谷映画他全国東宝洋画系にてロードショー)
[メディアファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年2月号より、抜粋・再構成]


25時(2002,アメリカ)
★★1/2

  落ちぶれたアイルランド系の青年モンティは、麻薬の売人に成り下がり、逮捕される。刑務所収監前に保釈金を積み、最後の自由を味わっている。タイム・リミットは24時間。
  自分を売ったのは誰だ? ヒスパニック系の恋人? 元締めのロシア・マフィア? 犯人の傍ら、モンティは幼なじみの親友二人と友情を確かめ合う。裕福な暮らしを送る株ブローカーのフランク、ハイ・スクールの教員ジェイコブ。幸せそうな二人も、それぞれ心の闇を抱えている。三人の夜の行く末は…?
  アフリカ系でかつてのトンガリ監督、スパイク・リーは、今回ぐっとトーンを抑え、白人マイノリティの哀しみを、ニューヨークを舞台に描く。それは9.11を経てグラウンド・ゼロを抱えた大都市の、途方に暮れる欠落感と痛みにも重なってゆく。ニューヨークの匂いが画面から漂ってきそうな一編だ。
(1月24日より東京・恵比寿ガーデンシネマ他にてロードショー)
[メディアファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年2月号]


かげろう(2003,仏-英)
★★★

  1940年フランス。夫を戦争で亡くしたオディールは、ドイツ軍の空襲を避けるため、13才息子フィリップと7才の娘カティを連れパリを後にする。避難の途上17才の青年イヴァンに危機を救われ、森の中に見つけた無人の一軒家で、外界から隔絶された四人の疎開生活が始まる。
  息子はイヴァンを兄のよう慕う。オディールはイヴァンの粗野な振る舞いに苛立ちを隠せない。彼女の冷淡な態度に腹を立てるイヴァン。そんな三角関係に無頓着な娘カティ。四人だけの生活が、外部から乱されたとき、それぞれの心の中で、なにかが弾けた…
  女優を美しく撮る名人監督テシネの下、『8人の女たち』でメイド役を演じたE・ベアールが、母の強さと大人の女の節度の内側で、揺れる恋心を好演。きらめくフランスの田園風景を収めた、女性撮影監督アニエス・ゴダールのカメラが光る。フランス映画らしい、微妙な味わいを湛えた物語。
(1月24日より東京・シネスイッチ銀座他にてロードショー)
[メディアファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年2月号]


タイムライン(2003,米-英)
★★

  現代の考古学者が中世ヨーロッパにタイム・スリップ。そこは英仏百年戦争の真っ最中の戦場だった。だが考古学者たちの行動から戦況は逆転、歴史が逆転する危機が到来。現代に帰るまでのタイム・リミットは6時間…彼らは歴史を元に戻し、無事帰還できるか!?
 『ジュラシック・パーク』の原作者の小説を、『リーサル・ウェポン』等のヒット・メイカー、ドナー監督が映画化。SFのスケールと歴史物のバトル感を対比させ、スリリングな世界を描き出す。CGを駆使したタイムマシンの描写と、中世ヨーロッパの城を攻め落とす暴力的迫力のコントラストがフレッシュで興奮も2倍。若手スターがのびやかな演技も新鮮でイケている、好感度抜群の大作だ。

(1月17日より東京・有楽町 日劇1他全国東宝洋画系にてロードショー)
[角川書店『東京ウォーカー』 2004年1月21日号]

ルビー&カンタン(2003,仏―伊)
★★★

  一足遅れの初笑いに最適。娯楽の王道を行く、アクション・コメディの登場だ。
  主人公カンタンは間抜けな泥棒で、いつもシャバと刑務所を行ったり来たり。根は善人なのだが、状況判断能力はゼロ。破壊的オシャベリで皆をキレさせ、ゾウも驚く怪力で、刑務所内でもトラブルを引き起こす。精神科医も「異常はない。ただ極めつけのアホなだけ」と匙を投げる。
  このカンタンが冷酷な犯罪者、ルビーと同房に入れられる。一言も話さず反応を示さないルビーを見て、カンタンは狂喜。「僕の話を黙って聞いてくれる人なん初めて。彼こそ親友だ!」と大勘違い。
  ここからカンタンの怪進撃が始まる。途方もない計画で二人で脱獄。ボスへの復讐に燃えるルビーにつきまとい、ストーカーも裸足で逃げ出すバカ騒ぎを巻き起こすのだ。
  凸凹コンビを演じるのは、フランスを代表する二大スター。ルビー役のジャン・レノは、『レオン』『RONIN』を彷彿とさせるクールな犯罪者を、久々の強面で演じてカッコイイ。
  だが最大の見所は、カンタン役のジェラール・ドパルデュー! もとはお下劣コメディでスターダムにのし上がった役者だが、最近は勘違い演技派路線で、暑っ苦しい芝居ばかり見せていた。しかし今回初心に返り、史上最大のアホを、抜群のリアリティですっきり軽やかに演じ、最後までイヤみがない。映画史に名を残しそうな、ハタ迷惑なアホぶりに抱腹絶倒間違いなし。
  監督のフランシス・ヴェベールは、『三人の逃亡者』『奇人たちの晩餐会』など、アメリカとフランスを股にかけ、憎めないアホを描き続ける名匠。おまけに重量感溢れるカー・アクションや銃撃戦は、アクションの醍醐味を満載。クライマックスでは社会の弱者に示す、暖かい眼差しに思わずホロリ。その上ラストで「やっぱりアホだ…」と落とす呼吸は心憎いばかりだ。
  こういう作品こそミニシアターではなく、全国のシネコンで大々的に公開すべし。真の映画ファンはうなり、驚き、歓喜する傑作だ。
(1月17日より東京・渋谷 シネ・アミューズにてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 No.3  1月20日号]


10ミニッツ・オールダー イデアの森(2002独―英)
★1/2-★★★

  世界の有名監督に、”時”をテーマとした10分間の短編を依頼。その成果が『10ミニッツ・オールダー』として一挙公開される。日本では二部に分けて上映されるが、様々な国の大家が中心になった『イデアの森』は、見応えがあり広くお薦めできる。
  最初に登場するのは『1900年』『ラスト・エンペラー』という大作から『シェルタリング・スカイ』のような愛のドラマまで、幅広く手がけるイタリアのベルトルッチ監督。『水の寓話』(★★★)の原題は"Histoire d'eaux"。長編デビュー前のゴダールとトリュフォが共同監督した短編『水の話』(Histoire d'eau)の複数形だ。題名が表すとおり、デビュー当時のような瑞々しさ溢れる白黒画面が魅力的。イタリアの田舎を舞台に、移民問題とインド思想を手際よくまとめた技はさすが。西洋から見た東洋思想が、無理なく消化されている。
  イギリスからハリウッドに移ったフィギス監督は、画面を四分割し、監視カメラ的な映像(『時代×4』★1/2)を展開。最初は面食らうが、分割画面をつなぐ鍵が「作家の意識」だと気づけば、楽に理解できる。
  メンツェル監督は、日本でも『つながれたヒバリ』などで知られた、チェコの風刺コメディの大御所。30年以上組んできた盟友の俳優、ルドルフ・フルシンスキーの生涯を、出演作の抜粋だけで振り返る、心温まる墓名碑だ(『老優の一瞬』★★★)。ナレーションを一切排した作りのおかげで、単なる一俳優へのオマージュを越え、ある典型的な男の一生を10分に凝縮したような面白みがある。
  ハンガリーのサボー・イシュトバーンは日本では『メフィスト』『太陽の雫』とユダヤ人問題やナチものの社会派監督として有名だが、『コンフィデンス―信頼』など、男と女の密室心理劇も得意。『イデアの森』は唯一、10分をリアル・タイムに近い形で扱い、平凡な夫婦の結婚記念日に起こる、思いがけない悲劇を描く(『10分後』★★1/2)。人生一寸先は闇、という、うまく書けた短編ミステリーのような味がある。
  唯一の女性監督、クレール・ドゥニの『ナンシーに向けて(原題)』(★★)は、曲者ならぬ”曲物”である。ここでいう「ナンシー」とは、フランスの都市の名前であり、フィリップ・ラクー=ラバルトらと並ぶ、現代フランスの代表的哲学者のひとり、ジャン=リュック・ナンシーのことでもある。映画はナンシー駅に向かうTGV(フランスの新幹線)の中で、哲学者ナンシーが、EU統合後のヨーロッパとフランスの危機について、若い女性と対話する様子を捉える。
  対話の背景にはシェンゲン条約により、EU加盟国の人がパスポート・チェックなしで、一部の外国に旅できるようになった事情がある。哲学者ナンシーの言葉は、ちょっと聞くと多文化社会を批判しているようだが、真意は逆だ。「開かれたEU」という理念が、その正当性やアイデンティティを証明するために、新たな排外主義や保守主義を生み出す危険(この辺は『ナチ神話』を読むとよく理解できる)、名ばかりの国際化の陰で、自我(実存)を他者(あるいは世界)に投げ出し、コミュニケーションを図る「分かち合い」がなおざりにされる危険を説く側面がある。
 『ブリキの太鼓』のシュレンドルフ監督篇、『啓示されし者』(★1/2)は、「啓蒙主義」という意味もある単語。アウグスティヌスの『告白』を、ドイツの凡庸な日常性の中にブラック・ユーモアとともにパロディするスタイルは、『ブリキの太鼓』の原作者、ギュンター・グラスのアフォリズムに似た趣だ。
  唯一のSF『星に魅せられて』(★★★)は、監督が『1984』の映画化とイタリア映画『イル・ポスティーノ』を両方手がけたマイケル・ラドフォードなので、涙腺を刺激してくる。タイム・トラベルの話をコロンブスの卵式に逆転させた設定もよい。ラストではプラッドベリの『火星年代記』のいくつかの章を読んだときのように、胸がいっぱいになる。
  そしてしんがりを務めるのはゴダール監督(『時間の闇の中で』★1/2)。自作(『女と男のいる舗道』『リア王』など)や他の映画やテレビ映像をコラージュしてゆく、お得意の手法なのだが、「最後のイメージ」という字幕が頻繁に挿入されるにつれ、前衛であり続けようとしたこの監督も、遂に老いと自らの死を意識し始めたのか(今年で73才)と、予想外の感慨に襲われる。
(12月20日より東京・有楽町 シャンテシネにてロードショー)
[メディアファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年1月号を一部訂正]


パリ・ルーヴル美術館の秘密(1990,フランス)
★★★

  ルーヴル美術館といえば、パリの観光名所にして、西洋美術の宝庫。その宝の山の舞台裏に『ぼくの好きな先生』のフィリベール監督がカメラを持ち込み、法外に面白いドキュメンタリーを完成させた。
  ルーヴルはもともとお城だったから、秘密の通路や抜け道がいっぱい。そんな地下室をメイル・ボーイがローラー・スケートで駆け抜ける巻頭から唖然。縦10メートル以上もある巨大な油絵の想像を絶する保管法や、展示の際の珍騒動(大理石でできたバルコニーがある仕掛けで外れるのだ!)、作品を倉庫から見つけ出せなくて困る学芸員たちのまごつき、果ては音響効果を調べるためにピストルまで登場するなど、驚きの連続。全編ナレーションは一切なし。大美術館の裏に広がる「ルーヴルという街」(原題)を自分の目で確かめる絶好の機会だ。
(12月20日より東京・渋谷 ユーロスペースにてロードショー)
[メディアファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年1月号]


イン・アメリカ 三つの小さな願いごと(2003,英―アイルランド)
★1/2

  クリスティは10才。パパとママ、妹のアリエルと、故郷アイルランドを後に、ニューヨークへと移住してくる。パパは売れない俳優。ママはウエイトレスのアルバイト、ウエスト・サイドのアパートは汚くて少し危ない。でもクリスティは元気。不幸な病気で亡くなった弟フランキーが、天使になって家族を守ってくれていると信じてるから。そんなある日、ママに赤ちゃんができる。早産で危険な状態。お願いフランキー、私たちを助けて…
 『マイ・レフト・フット』でダニエル・デイ・ルイスにアカデミー賞をもたらしたジム・シェリダン監督が、感涙のドラマ。自らの体験を元に作ったせいか、細かいリアリズムを切り捨てた分、理屈抜きで泣きたい人には最適の出来に仕上がっている。かわいい女の子が姉妹で二人登場するので、涙も『アイ・アム・サム』の二倍!? アパートに住む「叫ぶ男」ジェイモン・フンスウの名演技が光る。

(12月13日より東京 日比谷みゆき座他にてロードショー)
[メディアファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年1月号]


連句アニメーション 冬の日(2003,日本)
★〜★★★★★

 『ウォレスとグルミット』以降、女の子の間で人気爆発の『チェブラーシカ』、アカデミー賞にノミネートされた『頭山』など、日本では短編アニメの注目度が上がっている。
  今回アニメ界の有名監督たちが、短編アニメ集『冬の日』を作り上げた。これはファンへの贈り物であり挑戦状だ。
  原作は江戸時代に松尾芭蕉が、6人の俳句詠みと一緒に作った、俳句のしりとりのような「連句」という連作集。『冬の日』という題でまとめた36首の歌を、35人の監督が分担し、それぞれ2分以内の短編アニメ化した競作である。
 「江戸時代」「芭蕉」と聞いて尻込みする必要はない。遊び心いっぱいの短編が次々と登場する。一発ギャグの爆笑編あり、近未来SF調のアート感覚編あり、どこかのCMで見たようなキャラクターが出てくるものもある。人間が一切出てこないもの、フルCGで大スケールを実現したものまであって、退屈する心配はないと保証する。
  参加監督はテレビの『三国志』で知られる人形アニメ作家、川本喜八郎(彼のみ2本担当★★★〜★★★1/2)、『平成狸合戦ぽんぽこ』の高畑勲(★★★)ら超有名監督から、ひこねのりお(★★★1/2)などCM界の人気者、『頭山』の山村浩二(★)のような若手までずらり居並ぶ。その上ロシアの大アニメ作家ノルシュテイン(★★★★★)、油絵アニメのペトロフ(★★★★1/2)、チェコ人形アニメの長老ポヤール(★★★★★)など、海外からゲストまで参加している。
  ところが全36本を見終わるまでは、クレジットが出ない。つまりどのパートをどの監督が作ったのか分からない。そして全編の後に『冬の日の詩人たち』(★★)というメイキングか連続上映され、初めて監督が分かるという、仕掛けなのだ。
  ジャズやロックのファンなら「ブラインド・フォールド」のスリルと言えば分かるだろう。各パートの監督が誰かを見抜く、自分の鑑賞眼を試す絶好のチャンス。また審査員気分で見て、「グランプリはこれ!」と、”一人アニメ映画祭”を楽しむのも一興かも。
  様々な楽しみ方が出来る点も含め、味わい深く、何度でも楽しめる作品。アニメ・ファン以外にも激しくお薦め。

(12月13日より東京ラピュタ阿佐ヶ谷にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』 2003年 Nos.52-53 12月23/30日合併号を一部訂正]


ラストサムライ(2003,アメリカ)
★★★
MUSA―武士―(2001,韓国)
★★

  ここ数年、アクション映画界は、本場中国、ハリウッドとも、カンフー・アクションとCGを一体化した武闘に完全制覇されている感がある。
 その流れに「待った」をかけるアクション歴史大作が、正月には控えている。世間で話題の『ラスト・サムライ』は、日本人として歯がみするような、時代劇の快作である。
  だが、その陰で見落としたくないのが、韓国発のバイオレンス時代劇『MUSA―武士―』。『ラスト・サムライ』がトム・クルーズ版『ダンス・ウィズ・ウルブズ』とも言うべき、男の精神的美学を基調としているのに対し、こちらは戦う男たちの、荒ぶる生々しさが魅力の一本だ。
  時は十四世紀後半。遠い明(中国)から、故郷高麗(朝鮮)に帰るため、命がけの旅を続ける使節団の旅を描く。登場する男たちは、血の気の多いヤツらばかり。ちょっとしたトラブルが起こると、一触即発の緊張感が走り、仲間割れの危機が勃発する。
 そんな使節団の一行が偶然から、モンゴル軍に囚われていた明のお姫様(ゲスト出演のチャン・ツィイー!)を助けてしまう。かくして姫を追うモンゴルの軍勢との間に、凄絶な戦闘が展開される。
 ”武器は人を殺す道具である”という基本を徹底したアクション・シーンは、野蛮と紙一重の迫力。ラスト三十分で使節団は、孤立無援で城に立てこもり、多勢に無勢を承知の上で、総力戦になだれ込んでゆく。死をも恐れぬ男たちの戦いは『ワイルドバンチ』『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』もびっくりの、破天荒なスペクタクルとして爆発する。
  ただ日本の観客には、明・高麗・モンゴルの関係などの歴背景が分からないせいか、物語が把握しきれないところがある。登場人物の心理の描き込みに荒さが目立つも事実。
  もっとも、細部にこだわらず見せ場を畳みかけるのは、最近の韓国アクションの魅力でもある。全編一気に突っ走るカロリーたっぷりのエネルギーに身を委ねてしまえれば、ワイルドな男たちの生き様に燃えることができるだろう。

(『ラストサムライ』12月6日より丸の内ピカデリー1他全国松竹・東急系にて、『MUSA』12月13日より東京・歌舞伎町 シネマスクエアとうきゅう他にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』 2003年 No.50 12月9日号]




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