Office NESHA presents movie guide
Mar./Apr. 2002

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
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バーバー
アザーズ
トンネル
少年と砂漠のカフェ
モンスターズ・インク

One Point Critics
E.T.20周年記念アニバーサリー特別版 /キューティー・ブロンド
コラテラル・ダメージ/陽だまりのグラウンド
友よ チング/ビューティフル・マインド/
ドリアン・ドリアン/ 上海アニメーションの奇跡

シッピング・ニュース/ブラックホーク・ダウン
エネミー・ライン/アメリカン・スイートハート/
不実の愛、かくも燃え/寵愛

ロード・オブ・ザ・リング



バーバー(2001,アメリカ)
★★★★

  40年代末、アメリカの田舎町。床屋として何の刺激もない毎日を送っている中年オヤジが、詐欺まがいの悪徳商法に引っ掛かり、人殺しをやらかしてしまうお話である。
  こんなテレビのワイド・ショウのネタにしかなりそうにない話に、独自の視点と美学を投入し、骨太の一流映画に仕上げた作品だ。   主役の床屋のオヤジ、エドを演じるのは、ビリー・ボブ・ソーントン。このところデ・ニーロも真っ青の多彩な役を演じ分けているが、ここでは無口で少しトロイ男の日常を的確に表現。平日の夜にパチスロを前に煙草をくゆらせているオレたちのような、男の退屈な現実にのけぞる。
  こんなスタッフとキャストの競演が、クスクス笑いを呼び起こすユーモアをそこはかとなく呼ぶ。そして弁護士の登場と共に、人生のリアリティをひっくり返す、逆転劇の連続となるのだ。
  その末に金と消費という病に取りつかれた現代人の本性がひっぺがされてゆく。語り口の巧さと映像美に酔っているうちに、不思議と見ている側の意識が覚醒してくるような味わいが生まれてくる。
 『オー・ブラザー!』でアメリカン・ドリームの光を描いたコーエンは、今回その陰を暴き出す。床屋エドの迷いは、明日自分を襲うかもしれないドラマとして迫ってくる。映画がひとつの娯楽の枠を突き破り迫ってくる瞬間に、強い胸騒ぎを覚えるだろう。
  上出来のキューブリック作品を彷彿とさせる、辛口人間ドラマの誕生。大人の味わいと深みと知性が生んだ傑作。GWの一本はこれである。

(4月27日より、恵比寿ガーデンシネマ、日比谷シャンテシネ他にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』Nos.19-20,2002年5月7日・14日合併号]


アザーズ(2001,英−西ほか)
★★★

  よくある話だ。ホラー・ミステリーとして見た場合、勘の良いキミならオチは最初の5分で見抜けるだろう。なのにまったく退屈しない。オチが分かっていても、そこまでどう持ってゆくか、どこでネタを割るのか。見せ方が抜群にうまいのだ。
  この面白さは『ジョーズ』を思い出させる。話は分かり切っているのに、音楽やカット割りの妙に、ついワクワクドキドキしてしまう。そんな緊張感とテクニックが全編にちりばめられ、細かい仕掛けに満ちあふれている。
  だから敢えて物語については触れないでおこう。イギリスの片田舎のゴチック的雰囲気をフルに活用し、光と影を巧みに利用した映像の美しさに溜息をつきつつ、画面に引き込まれてゆくのが、この映画の正しい楽しみ方だ。
  主演のニコール・キッドマンは、『ムーラン・ルージュ』でアカデミー賞にノミネートされたが、演技はこの映画の方が上出来。もとからモデル上がりの勘違い系大根女優の彼女が、『誘う女』同様、キレてる系のオーバー・アクトでスリラーの世界によくフィット。こういう巧い使われ方をしてると、ブタもおだてりゃ木に登る式に、本当の演技派女優になってしまうかもしれない。
  こんなスリラーの仕掛人は、スペイン人若手監督アレハンドロ・アメナバール。長編第一作『テシス 次に私が殺される』という、骨太スリラーで世界的に注目を受け、続く『オープン・ユア・アイズ』は『バニラ・スカイ』としてリメイクされた。その返礼で手懸けたハリウッド進出第一弾で、大予算をフル活用し自分の趣味を生かしつつ、ビシツと娯楽映画をまとめた手腕は見事の一語に尽きる。
  多くの若手ヨーロッパ監督がハリウッドに移り、トラブッて失意のうちに本国に戻ったり、金のために魂を売り渡す例を見てきた身にとって、アメナバールのしたたかさは大変うれしい。今後最も注目すべき監督の新作として、強く推薦する。
(4月27日より、丸の内プラゼール他全国松竹系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.17,2002年4月30日号]


トンネル(2001,ドイツ)
★★

  本当に圧政や閉鎖的体制に苦しむ人々にとって、自由は抽象観念ではなく、現実に闘い取るべき権利だ。命がけの亡命や国境越えの事例は、様々なドラマや悲劇を巻き起こしている。
  ただこの手の作品は、背景を知らない人にとっては取っつきにくいことも事実。その点、テレビドラマ版と同時撮影された『トンネル』は、分かりやすくスリルと悲しみを乗せた娯楽映画として楽しめる。
  リヒター監督はベルリンの壁ができた1960年生まれ。壁の向こうに残した妻子や恋人、友人を救うために団結する人々のドラマを手際よく見せる。歴史や政治の重苦しさから壁のドラマを解放したところが目新しい。
(4月13日より、東京日比谷シャンテ・シネにてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』2002年4月号を一部改稿]


少年と砂漠のカフェ(2001,イラン―日本)
★★★

  米国による「タリバン討伐」を目的としたアフガン空爆は「成功裡に終了」したらしい。だが貿易センタービルのテロ事件以前から何年も続いていた、アフガン内戦が終わったのかは、今ひとつはっきりしない。少なくとも完全な平和にはほど遠いようだ。

  このイラン映画は米国の空爆作戦の一年前、アフガンと国境を接するイランの砂漠地帯を舞台とするフィクションだ。現実にアフガン内戦を逃れてやってきた難民の少年を主演に起用し、孤独な難民少年の不安な生活を淡々と描く。

  果てしなく続く砂漠の道。時折山の向こう側、アフガンで起こる砲撃がこだましてくる。主人公の少年キャイーンは一人で異国の地イランで、ハードな労働をこなしつつ、不法入国を摘発されることを恐れる日々を送っている。

  戦場の場面は一度も登場しない。砂漠の生活が、ゆったりと描かれる。その美しさが不気味だ。あたかも砂漠がキャイーン少年にとって、限りなく広いのに出口のない牢獄のように見えてくる。

  砂漠の貴重な資源、井戸を修理し、外界と唯一の接点を保証するトラックのタイヤのパンクを直す毎日。自分同様アフガンから来た難民を見送る生活。すべての瞬間に、命をかけるに、必死に働くキャイーンの姿は衝撃的ですらある。

  映画通から注目を浴びているアボルファズル・ジャリリ監督は、写真家の目をもって、国境の自然と生活を丁寧にすくい上げる。その姿勢が凡百の反戦映画を越える、内戦のもうひとつの現実を、フィルムに定着することに成功した。

  その結果映画全編に、たとえば二〇世紀末にNHKでオンエアされた「映像の世紀」や、写真家集団マグナムなどの報道写真に通じる、美しさと詩情、そして力強さがみなぎっている。ここにドキュメンタリーと劇映画の境界は壊れ、現実をありのままに観客に体験させる、映画の原型が生まれたのだ。

  戦争難民の悲劇を後世に残す、二一世紀最初の歴史的映像として記憶されるかも知れない注目作である。

(3月30日より、渋谷シネ・アミューズにてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.13,2002年3月19日号]


モンスターズ・インク(2001,アメリカ)
★★★★

  何の世界でも、トップであり続ける人々は、目の付け所が違う。現在世界アニメ界で、内容・興行の両面でブッチ切りのトップを張っているのが、『トイ・ストーリー』シリーズのピクサー社だ。

  今回ピクサーが挑む課題は、言葉が話せない二歳の女の子が芝居をする映画を作ること。二歳と言えば、人間らしい表情がようやく豊かになる年令。しかも危険を知らず勝手にどこかに走り出してしまうから、あぶなっかしくて仕方がない。でも憎たらしいことも口走らないので、見ているだけならて一番かわいい年頃だ。

  とはいえどんなに名監督が頑張っても、天才子役がいても、本物の二歳児に演技をさせることは不可能。つまり二歳児の芝居は3DCGアニメでしか、リアルに表現できない! この盲点に気づいたスタッフのアイデアだけでも脱帽ものである。

  物語の舞台は、人間の子供を怖がらせるのが仕事なのに、本当は人間が怖くて仕方がないモンスターの世界。そこに人間の二歳児ブーが迷い込んだ。動物好きのブーは、モンスターを猫と勘違いして、「ニャンコ、ニャンコ」と追いかけ回す。モンスターは悲鳴を上げて逃げ回る…『ホーム・アローン』シリーズなど足下にも及ばない、抱腹絶倒の連続である。

  そこでブーを人間世界に帰そうと一肌脱ぐのが、クマと鬼の合いの子のような化け物サリーと、おしゃべりな一つ目お化けマイク。『トイ・ストーリー』のウッディとバズ以来、凸凹コンビの表現はピクサーのお家芸。間抜けな奮闘ぶりが最高に楽しい。

  藤子不二雄・Fの影響が見えるアイテムなど、日本人にはニンマリの細工もうまい。笑いとアイデアの洪水に狂喜乱舞しているうちに、CGのキャラが「背中の芝居」を見せるのに愕然。ジンと来て涙が浮かぶラストまで、至福の瞬間が途切れない。

  現在世界で唯一、宮崎アニメと互角に勝負できる、長編アニメの名作誕生。二一世紀はピクサーの時代だ!

(3月2日より、渋谷東急他全国東急・松竹洋画系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.11,2002年3月5日号]



One Point Critics


E.T.20周年記念アニバーサリー特別版(1982/2002,アメリカ)
★★★★1/2

  まったく色褪せていない。昔と同じようにワクワクしながら、以前気付かなかった創意に驚き、同じところで涙が止まらなくなった。細かい改変はどちらでも構わない。この映画をけなすことが知性だという思想は悪趣味だ。大スクリーンを前に全身を震わせてほしい。歴史的名作。
(4月27日より日比谷映画他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年4月25日号]

キューティー・ブロンド(2001,アメリカ)
★★1/2

  人間見た目で判断してはいけない、というテーマをストレートなコメディにまとめていて、今時の日本の女の子には共感できるところが多そう。細部に疑問や不満はあるけれど、ウィザースプーンの好演と、予定調和のラストは快感かもしれない。やはり偏見は持ってはいけないのだ。
(4月27日より渋谷東急3他全国東急洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年4月25日号を一部訂正]

コラテラル・ダメージ(2001,アメリカ)
★★

  映画自体はシュワが主演であることにおぶさった荒唐無稽に、社会派の衣をまとわせた安手の作り。当のシュワにハードなアクションがもうできないので、そんな設定が小賢しく感じる。『コマンドー』の思想性ゼロ、B級に徹したおもしろさと明るさが懐かしい。
(4月20日より渋谷パンテオン他全国東急・松竹系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年4月11日号]

陽だまりのグラウンド(2001,アメリカ)
★★★

  意外な拾い物。最近のハリウッド定番癒し甘ちゃんドラマと思ったら、かなり凝った硬派感動もの。部分的に作品のバランスを崩しつつ、社会派の側面と予定調和のあざとさを強引に共存させる脚本と演出が健闘。ラストは好悪真っ二つに分かれそうだが、見て損はしない。子供たちの魅力に負けじとキアヌとダイアンも好演
(4月20日より丸の内ピカデリー2他全国松竹系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年4月11日号]

友へ チング(2001, 韓国)
★★

  巻頭、侯孝賢を彷彿とさせる瑞々しさで少年時代が描写され、膝を乗り出したが、興味をそそられたのはそこまで。日本・台湾・香港映画で飽きるほど見せられる、極道ものの定石どおりの展開。狂言回しとなる主人公の存在感のなさも含め、題名ほど友情を訴える力はなく、普通のB級活劇以上のものではない。
(4月6日より日比谷みゆき座他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年3月28日号]

ビューティフル・マインド(2001,アメリカ)
★1/2

  類い稀な美貌と確かな演技力を持ちながら、不遇な20代を送っていたジェニファー・コネリーがつかんだ、大作の大役。是非オスカーを獲ってステップ・アップしてほしい。映画自体は後半の「知ってるつもり!?」的展開が、前半の面白さを否定する構造を呼び、後味がすっきりしない。心の病の物語を美談にするのは無理がつきまとう。
(3月30日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年3月28日号]

ドリアン ドリアン(2000,中国)
★★1/2

  ヒロインが帰郷する後半、安らぎと不安が同居する世界が展開。監督の新境地。
(4月13日より東京恵比寿ガーデンシネマにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年3月28日号]

上海アニメーションの奇跡(中国・一部日本合作)
★★★−★★★★★

  水墨画アニメは中国経済の変化で技術が消 えもう作れないとか。必見の傑作揃い!
(3月30日より東京ユーロスペースにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年3月28日号]

ブラックホーク・ダウン(2001,アメリカ)
★★1/2

 技術的には現代の粋。CGと戦争アクションを併せた映像と編集の完成度は非常に高い。かつて見たことのない映像が体験できる。一部報道にあるような国威発揚ではないだろう。米兵から見たソマリアという視点は一貫しており楽しめるのだが、ソマリア人がエイリアンに見えてくるのも事実。『プライベート・ライアン』の説得力には及ばない
(3月30日より東京日劇1他全国東宝系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年3月14日号]

シッピング・ニュース(2001,アメリカ)
★★1/2

  神経症的テーマが得意な監督が、クセの強い俳優陣に抑制した芝居をさせることで、美しい作品にまとめることに成功。癒しのテーマがミラマックス的分かりやすさで展開する。ニュー・ファンドランド島の厳しい自然は一見の価値あり。ただ全編の節度が、納得はできるが感動に至らないもどかしさを呼んでいる気もする。
(3月24日より東京丸の内プラゼール他全国東宝系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年3月14日号を一部改稿]

エネミー・ライン(2001,アメリカ)
★1/2

  冷戦崩壊後の90年代、国連平和維持軍の中立性について、異なる側面から考えることができます。戦争で結果オーライは良くあることなのだけど、米国人は「蛮勇」という言葉の意味を考えたことはないのだろうか?
(3月9日より東京日劇3他全国東宝系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年2月28日号を一部改稿]

アメリカン・スイートハート(2001,アメリカ)
★★

  「セレブ」と聞いてピンと来る人なら楽しめそう。ハリウッドの舞台裏コメディなので、ラブ・ストーリーを期待すると不満が残るかも。エゲツなさと品の良さと予定調和の世界を、製作・共同脚本も兼ねたB・クリスタルがバランス良くさばく。そのバランス感覚が作品の個性を弱めているから、映画は難しい。ジュリアは魅力的。
(3月2日より東京日劇1他全国東宝系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年2月28日号を一部改稿]

不実の愛、かくも燃え(1999,スウェーデン他)
★★1/2

 ベルイマンが男のエゴ丸出しで書いた脚本に、ウルマンが女の視点で意趣返し。
(3月2日より東京シャンテ・シネにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年2月28日号]

寵愛(2000,韓国)
★1/2

  CMのように現実感のない映像。主演女優の美しい肢体。そして下らない物語。
(3月17日より東京シネ・ラ・セットにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年2月28日号]

ロード・オブ・ザ・リング(2001,アメリカ)
★★1/2

  恥ずかしいけど原作を読んでないんです。勝手に重厚感と生気に満ちた冒険活劇を予想していたので、陰鬱で近未来SFのような世界に戸惑いました。黄色系の再現力が弱いフジ・フィルムを使用したことも手伝い、色彩にも閉塞感が強い。つまらなくはないが、このトーンで三時間は私には長すぎた。観客を選ぶ映画なんでしょう。
(3月2日より東京丸の内ピカデリー1他全国松竹・東急系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年2月14日号]


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