Office NESHA presents movie guide
Apr./ May 2004

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
詳細はこちらをご覧下さい

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カレンダー・ガールズ
スイミング・プール
ビッグ・フィッシュ
ヴェロニカ・ゲリン
パピヨンの贈り物
CASSHERN
スクール・オブ・ロック
テディベアのルドヴィック
ホストタウン エイブル2
列車に乗った男
真珠の耳飾りの少女
ディボース・ショー
スパニッシュ・アパートメント

カレンダー・ガールズ(2003,イギリス)
★★

  1999年、イギリスで中年女性のヌード・カレンダーが爆発的ベスト・セラーに! その成立の裏には、最愛の夫を失った親友を勇気づけようとする、田舎町の平凡な主婦たちの、感動の友情のドラマがあった。この実話の映画化が『カレンダー・ガールズ』だ。
  舞台はイギリスのヨークシャー。気の強い主婦クリスは、家事とガーデニングばかりの平凡な日々でも、何か引っかき回さずに気が済まない。一番の親友は穏やかな、主婦の鏡のようなアニー。アニーの夫ロッドが亡くなったとき、クリスはヌード・カレンダーを作って、彼を追悼しようと言い出す。あまりのアイデアに唖然とする周りの主婦たち。しかしロッドが妻アニーに遺した言葉が、”自分たちは今が一番美しいのだ””今脱がないで、いつ脱ぐの!”と、女たちの心を動かしてゆく。
 このカレンダーがイギリスはもとより、アメリカでもバカ売れ。主婦軍団はハリウッドに招待される。しかしモノがモノだけに、このカレンダーが元で、多くの主婦の家庭に危機が訪れる。それを乗り切るために、彼女たちの友情は更に強まる。
  これまでのイギリス映画と比べ、画面が明るい。緑の大地に咲き乱れる花、そこに降り注ぐ陽光と、遙かにカラフルで、クスクス笑いながら、どこか癒される柔らかさが映画全体を包んでいる。
 映画を見た後、古い友だちに電話をかけたくなる、温かな一本だ。

(5月29日より東京・日比谷 シャンテ・シネほかにてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年6月号より抜粋・一部修正]


スイミング・プール(2003,仏―英)
★★★

  イギリスの売れっ子ミステリー作家、サラ・モートン。来る日も来る日も人気シリーズを書き続けることにうんざりした彼女は、純文学に挑戦するが、出版社社長ジョンに一蹴される。
 「気分を変えてこい」ジョンは自分の南仏の別荘を彼女に提供する。南の陽光のなか、リラックスするサラの前に、突然ジョンの娘と名乗るジュリーがやってきて、予期せぬ共同生活が始まる。南仏でも規則正しい生活を送るサラが持っていないものを、ジュリーは持っていた。若い肉体、奔放な精神、快楽のためのSEX…別荘の主はジュリーで、サラはその間借り人のように感じられた。
  ところがジュリーの秘密が明らかになったとき、二人の主客は逆転する。感情を制御する術を知らぬ若いジュリーを、サラは知性でコントロールし始める。その代償として、サラは自分を解放してゆくことを覚えてゆく。そこに起こる、不慮の殺人事件…
 『まぼろし』で新しいファンを獲得したシャーロット・ランプリングが、知性と色香を併せ持つヒロイン、サラに扮し、理想的とも言える大人の女性を演じる。対するジュリー役は『8人の女たち』で末娘を演じたリュディヴィーヌ・サニエ。前作とはうってかわり、ダイエットとスポーツでセクシーな肉体に変身しスクリーンに登場。水着姿に大胆なベッド・シーンまで見せながら、あばずれ娘の心に潜む不安と痛みを見事に体現し、名女優ランプリングにひけを取らない。
  そしてラストに待っている大どんでん返しに、顎が外れるほどビックリ。「あれはどういうことだったの!?」と友だちと議論百出になること間違いなし。文学では絶対無理、映画でないとできないトリックは、見る人によって解釈が変わる、一級品である。
  このトリックの仕掛け人はフランソワ・オゾン監督。『まぼろし』『8人の女たち』で一般映画ファンの知名度を上げたが、彼の持ち味は元来、降り注ぐ南の光の下展開される、ちょっと毒のある人間観察。その点で『スイミング・プール』は映画の娯楽性と作家の個性、それにオシャレなテイストまでを兼ね備えた、映画ファン、ミステリー・ファンには堪えられない傑作と言えるだろう。

(5月15日より東京・渋谷 シネマライズほかにてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年6月号]


ビッグ・フィッシュ(2003,アメリカ)
★★★

  いつもホラ話ばかりで、周りの人を煙に巻いている父エドワードに反発し、ウィルは親と絶縁状態。そこに届く父危篤の知らせ。子供の頃から家を留守がちにしていた父の、本当の人生を知りたいと、ウィルは尋ね始める。そして彼は人生で夢見ること、ホラ話をすることの価値を知ってゆく。
  アーヴィングを彷彿とさせる破天荒な物語を、ティム・バートンはファンタジーとリアリティが共存する世界として表現することに成功。夢溢れる若き日の父の世界をこぼれる光の映像で、現代の映像を陰翳深い映像で表現し、愛し合うことの意味を謳い上げる。死を目前にした父と母が浴槽で抱き合うシーンは、胸が熱くなり目頭を押さえずにいられない。そして父がずっと語らずにいた「自分の死の瞬間」に至り、涙でスクリーンが見えなくなるだろう。あなたの生涯のベスト・ワン映画になるかもしれない、感動が待っている。

(5月15日より東京・日比谷スカラ座1ほか全国東宝系にてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年6月号]


ヴェロニカ・ゲリン(2003,米=英=アイルランド)
★★★1/2

  21世紀になって一番はやらなくなった言葉は「正義」ではないか? 確かに物事の善悪は、白黒はっきりつくものではない。善と悪を二分する単純思考は、イラク戦争のような蛮行を招く。「善意」のために動く人間は、どこかいかがわしかったり、「善意」を楯に関係ない人間に平気で迷惑をかけて反省もしない…
  だが、悪いことはやっぱり悪いことだ。幼児虐待、暴力、ドラッグ密売…「正義」の死が、「悪」の肯定につながるとしたら、生きる意味があるだろうか?
  これはアイルランドの麻薬密売組織を破滅に追い込んだジャーナリスト、ヴェロニカ・ゲリンの実話の映画化だ。彼女は旦那も子供もいる30代の新聞記者。小学生くらいの子供にまでヘロイン中毒になっている現場に出くわしにショックを受け、取材を開始するが、やがて密売マフィアから警告を受け、命を狙われる。
  普通の社会派映画だと、ここで主人公は「私は負けない。マフィアに屈せず断固スクープ記事を書く!」と、一人で力んでしまう。しかしこの映画のヴェロニカは違う。スクープ狙いのジャーナリストの視点を捨て、最も安全かつ正当な方法でマフィアと対決する道を選ぶ。
  愛する家族や友人を、自分の信念のために犠牲にしてはいけない。麻薬に反対しただけで脅されるようでは、みんな怖れて沈黙し、自分を支持してくれなくなる。ヴェロニカはこの重要な事実に気付き、自分の功名心もプライドもを捨てる。この選択は非常に感動的だ。
  演出にも「これは実話だぞ! ほら、驚け、泣け、感動しろ!」という、アザトさは皆無。全編は1時間38分と贅肉のない肉体のようにシェイプ・アップされ、娯楽としてのツボを的確に抑えながら、ドラマの核心となる箇所だけを剛速球として観客の頭と心に投げ込んでくる。
  ヴェロニカ役のケイト・ブランシェットは、強いけれど人間的なヒロインを、クサイ演技ゼロで血肉化。近年のハリウッド映画では最高の演技ではないか。
  本物の悪と、正当に戦うにはどうしたらよいか? 迷える現代を生きる指針を示す、社会派映画の白眉。社会への怒りの表現方法がが分からず、無力感を覚えているキミは必見である。

(5月29日より東京・恵比寿ガーデンシネマにてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 No.22  6月1日号]


パピヨンの贈り物(2002,フランス)
★★★

  パリのアパルトマンに一人暮らしする老人ジュリアンは蝶の収集家。ある日生涯追い続けている幻の蝶を求めてトレッキングに出かける。ところが出発間もなく、車に同じアパルトマンに住む8才の女の子、エルザがバック・シートから顔を出しビックリ。エルザは母が看護婦で、独りで過ごす夜が多く、寂しい思いをしていたのだ。ドライブに無邪気に喜ぶエルザに心をほだされ、ジュリアンは彼女を蝶探しに連れて行くことに。
  老人と少女の心のふれあいのドラマに、”泣かせ”の趣向は皆無。エルザがワガママの内に、ジュリアンと対等に渡り合い議論する様は痛快ですらある。そしてやがて明かされる二人の秘密、通い合う心と心。距離を置いて人間を差別せず描くという、フランス映画のお家芸が堪能できる。思わず頬がゆるんでしまうラストも秀逸。涙より微笑みを求める人にお薦めの逸品。エンド・タイトルに流れる歌が素敵なので、お聞き逃がしなく!

(5月15日より東京・銀座テアトルシネマほかにてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年5月号]


CASSHERN(2004,日本)
★★1/2

  かつてSMAPがガッチャマンに扮したテレビCMを見て、「日本映画も、ひょっとしたらスゴイCGアクションが作れるんじゃ?」「特撮・アニメでは世界のトップ水準にあるのに、なぜそれを大スクリーンの劇映画に活かせないのか?」と思った人は少なくないだろう。
 その疑問と不満を解消する映画が遂に誕生した。『CASSHERN』は各方面のクリエイターと俳優の熱意が、化学反応を起こし、爆発を起こしたような、新しくて熱い傑作である。
 率直に言って、設定の新しさはない。近未来の帝国戦争、環境破壊、永遠の命を求めて作られる蘇生システム、そこから生まれる人間でも機械でもない「新造人間」、ロボットが大挙繰り出す戦闘、CG駆使の武闘アクション……部分的に取り出すと『AKIRA』『イノセンス』などのアニメ、永井豪のマンガ、『スターウォーズ』の最近2作品や『ブレードランナー』と似たものばかりではある。
 しかしこの映画には、力強いメッセージがある。戦うことの悲惨を訴え、「愛するものを守るために戦う」という、『宇宙戦艦ヤマト』以降延々と続く、いかがわしいメッセージに、真正面から”No!”を叫ぶ。このストレートな”非戦”の訴え、そこに込められた思いが、ドラマ、ヴィジュアル双方に、日本映画が失っていたエネルギーを生んでゆく。
 しかも全編は絶対アニメでは実現できない世界である。「新造人間」の生みの親に寺尾聰・樋口可南子の『阿弥陀堂だより』コンビを配し、三橋達也、大滝秀治という老名優たちと、陰翳に富んだ味わい深い演技を見せる。この名優たちの名演があって初めて、CGアクションが生命をもち、手に汗握る興奮をたぎらせてゆく。そんなうねりに引きずられるように、伊勢谷友介、唐沢寿明、及川光博、佐田真由美ら、若手たちがテレビやこれまでの映画からは想像も付かなかった底力を発揮。凄味のある演技を見せる。
 これは生身の俳優と、どうしても伝えたい、正しいメッセージがあって初めて傑作は生まれると証明し、劇映画のアニメに対する優位を奪還した、記念すべき日本映画だ。その誕生を、同時代の映画ファンとして、スクリーンで体験すべし。

(4月29日より東京・有楽町 丸の内ピカデリー2ほか全国松竹洋画系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 No.17  4月27日号]


スクール・オブ・ロック(2003,アメリカ)
★★1/2

  一昔前は「アメリカは日本と違い受験戦争などなく、子供が伸び伸び育つ」と言われていた。今そう信じている日本人はいないだろう。公立校で銃乱射事件が起こり、金持ちの子供は制服姿で高額の授業料の私立学校に通い、小学校の段階で階級意識を叩き込まれる――それが”自由の国”アメリカの正体だ。
  そんな名門小学校に、学問もなく、いい年してロック・スター気取りのダメ男が臨時教員として潜り込む。日本だと「荒れてる高校に熱血教師が乗り込み、生徒を非行から救う」ドラマになるのが普通なのに、逆の設定を立てたところに、『スクール・オブ・ロック』の面白さが生まれている。
  主人公のダメ男デューイ(『愛しのローズマリー』のジャック・ロンドン。ロッカーとしても有名)は、教室で生徒に「自習しろ」と命じ、ずっと居眠り。しかも音楽の授業を覗き見し、楽器ができる生徒が多いと知るや、「こいつらにロックをやらせたら、コンテストで優勝できる。金が手に入る。オレをバカにしたヤツらを見返せる!」と強引にロックの授業を開始する。子供への思いやりなど皆無、私利私欲の塊、究極の勘違い系オレ様野郎なのだ。
  ところが意外にも、生徒の目が俄然輝きはじめる。それはロックが人の心を開く素晴らしい音楽だったから、ではない。規律正しい生活に慣れた生徒たちは、野放しの自由を与えられ途方に暮れていた。そこに「先生」から「課題」と「目標」を示されて、「頑張るもん!」と張り切り出しただけのこと。その意味で、優等生という生き物は不気味に従順だ。
  ただデューイは、他の教師が口にしない約束を求めた――ロックの特訓をしてることは、クラス全員だけの秘密。相手は小学校5年生という、一番多感な頃。(余談ながら『魔法使いサリー』『ひみつのアッコちゃん』はじめ、多くの人気少女マンガの主人公は、小学5年生である。)決められたレールの上を走っていた子供たちは、秘密の共有を通じ、「世の中には自分の知らない世界がある」と知る。
  更にデューイがミュージシャンだけでなく、ステージ・ライティングからマネージャー、警備員まで、すべての生徒に持ち分を分担させたことで、チーム・プレイの精神が芽生え、「この世に不要な人間などいない」ことを子供たちは学ぶ。デューイに楯突いていたクラス委員の少女サマーはマネージャーとして辣腕を揮い、デブだけどモテたいと思っていた内気なローレンスはピアノの才能からキーボードに抜擢されクールになる。特に途中から「私も歌いたい」と怖ず怖ず申し出る少女トミカが、女神の声の持ち主であったと判明する場面は、震えが来るエピソードだ。
  こうして最初は小憎らしく見えていた子供たちが、活き活きと動き出し、ラストには爽やかな感動が待っている。それもこれも、先生役のデューイが最後までダメ男のままだから。この逆説が『スクール・オブ・ロック』のポイントだ。
  デューイは金目当てて働き、子供を利用しているのだから、「秘密がバレる」=「クビ」=「オマンマの食い上げ」。だから生徒が秘密をばらさないよう、クラス全員に気を配り、子供ゆえの切ない悩みの相談も受け、前に進めるようアドヴァイスを送り、勇気づける…つまり自分の利益を守ろうとした結果、教科の指導を越えた「真の教育」を、無意識に実践してしまうのだ。

(4月29日より東京・日比谷映画他全国東宝洋画系にてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年5月号より]


テディベアのルドヴィック(1998-2002,カナダ)
★★★★

  愛くるしいテディ・ベアが、人形アニメ化! 人間でいうと3―4才? のルドヴィックという名のクマちゃんが、成長してゆく四季を描くオムニバスだ。落ちていた人形を助け友だちになる「雪の贈り物」、折り紙の猛獣たちとピクニックする「ワニのいる庭」、亡きおばあちゃんとのダンスに涙が溢れる「おじいちゃんの家」、公園で淡い初恋を知る「空に浮かぶ魔法」。抱いて寝たくなるくらいルドヴィックがカワイイのは当然。胸が熱くなる一瞬が散りばめられ、文字通り珠玉の48分。
 製作はロシア、チェコと並び人形アニメの三大国と称されるカナダの大御所、コ・ホードマン。人形を少しずつ動かしては撮る「コマ撮り」方式で、1編に1年、足かけ5年をかけ完成させた。現代に活きるアニメの匠の技を、是非スクリーンで見たい。

(4月24日より東京・渋谷ユーロスペースにてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年5月号より]


ホストタウン エイブル2(2004,日本)
★★★

  今年はアテネ・オリンピックの年。近年日本でも話題になっている身体障害者の競技会、パラリンピックも開催される。
 ところで世界にはもうひとつ、スペシャル・オリンピックスというのがある。こちらは奇数年開催で、知的に障害のある人々の世界スポーツ大会だ。
 この映画は2003年、アイルランドのダブリンで行なわれた、夏季スペシャル・オリンピックスで、日本選手団の滞在地(ホストタウン)となったニューブリッジという街の記録である。つまり前回サッカー・ワールド・カップの中津江村のドキュメントみたいなものだ。
 映画の中心となるのは総勢14人からなるパーセル一家。家族のうち二人は知的障害がある。18才のエイミーは「学校出たら会社で受付嬢になるの!」と、養護学校から普通学校に転校し、社会に出るのを楽しみにしながら、オリンピック団との出会いを待ち望んでいる。
 妹のリンジーは対照的に内気な性格。最初は普通学校に通っていたのに、「みんなと同じことができない」と思い詰め、養護学校への転校を希望。同じ苦しみを抱える仲間と生活することで、自分らしさを取り戻しつつある。
 二人に共通するのは、パッと外見や動きを見ていると、全然障害者に見えない点。見た目は普通だけど実は普通じゃない人は、身の回りにもたくさんいそうで、しばし我が身を反省させられるかも。
 そしてエイミーとリンジーの選択は 「同じ悩みを抱えていても、解決法は人それぞれ」と示している。これは障害を持たない人にとっても、とても大切な真理だろう。二人の笑顔や涙を見ていると、逆にこちらが勇気づけられてくる。
 この種のドキュメンタリーにありがちな、押しつけがましさやお涙頂戴はまったくなし。日本人選手団を迎えるため、日本語を覚えようとする姿、到着した日本人との交流などは、思わず噴き出したくなるくらいおかしい。笑いと明るさに満ちた世界に、アイルランドの緑溢れる自然が彩りを添え、癒される思いがする。
 不穏な事件ばかりの昨今、一番元気を与えてくれる傑作。彼女とのデートに絶対お薦め。これに感動しない女とは、家庭を持たない方がよいかもしれない。

(4月24日より東京渋谷シアターイメージフォーラムにてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 Nos.19-20  5月11日・18日合併号]


列車に乗った男(2002,フランス)
★★★

  ラヴ・ストーリー、コメディ、史劇と、ジャンルを問わず新作を発表し続けるパトリス・ルコント監督。それもほぼ年に一本のペースは、現代の映画界では驚異的。新作『列車に乗った男』では、過去のルコント作品では『タンデム』に通じる、二人の男の、数日間の友情を描いている。
  列車に乗って名もない街にやってくるのは、ジョニー・アリディ演じるギャング、ミラン。TGVに酔って頭痛薬を買いに入った薬局で、ジャン・ロシュフォール演じる、元教員の年金生活者、マネスキエと出会う。人気のない街を歩くミランは、ホテルを見つけることができず、マネスキエの家に泊まることになる。久々に話し相手を得て嬉々とするマネスキエを後目に、ミランは口数も少ない。映画の前半は、北の街独特とも言いたくなる肌寒さに覆われている。実際の撮影はリヨン郊外で行われたそうだが。
  マネスキエはミランの留守に部屋に入り、拳銃を発見してしまう。だが子供の頃から西部劇ファンで、アメリカに憧れていた彼は、警戒するどころか子供のように喜んでしまう。そんなマネスキエに最初は当惑しつつも、ミランは「スリッパを履いてみたい」などと、自分の体験したことがない世界に身を置く歓びを知り、安らぎを覚え始める。マネスキエが本物の銃の撃ち方を教わる場面など、映画の後半は『髪結いの亭主』のユーモアと、『仕立て屋の恋』の切なさが同時に漂う、ストレートだが味わい深い世界となっている。
  そしてルコント映画のトレード・マークの感すらある、シネスコ・サイズの画面が、映画の密度を高めている。二人の男の孤独と心の触れ合いが、小ぢんまりまとまらず、映画全体の空気として心に染みる辺り、ルコントのリリシズムは円熟の域に達している。

(4月10日より東京・渋谷Bunkamuraルシネマにてロードショー)
[『キネマ旬報』 2004年5月上旬号より抜粋・再構成]


真珠の耳飾りの少女(2002,英-ルクセンブルク)
★1/2

  フランドル絵画の天才フェルメール。繊細な陰翳、美の定義の再検討を迫る色彩、微妙な表情や仕草を示す人物…その世界は他のどの画家にも似ていない。彼の手になる真作と鑑定されている現存作品が二桁に満たないことも含め、今日なお謎の画家として、多くの人を魅了してやまない。
  この映画は『青いターバンの少女』として知られている絵画の制作過程を大胆に創作した小説の映画化。フランスを中心に英米でも活躍する名撮影監督エドゥアルド・セラは、フェルメールの色彩と光をスクリーンに映像化しようと粉骨砕身。ファンをあっと言わせる仕事を見せる。
  物語はモデルとなった少女の目を通じて展開。少女、妻、義母、娘…芸術家のエゴに苦しめられながら、その天才に惹かれ離れられない女たちのドラマとなっている。『アマデウス』を彷彿とさせる芸術家ドラマをお楽しみあれ。

(4月10日より東京・シネスイッチ銀座ほかにてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年5月号]


ディボース・ショー(2003,アメリカ)
★★1/2

  ジョージ・クルーニーは曲者だ。自ら監督業に乗り出すだけでなく、オタク系監督、ソダーバーグを起用して傑作娯楽映画『オーシャンズ11』を作らせ、一躍メジャーに押し上げるなど、才能を発掘、飛躍させる仕掛け人として並みでない腕の持ち主なのだ。
  今回クルーニーが白羽の矢を立てたのは『オー・ブラザー!』で組んだコーエン兄弟。80年代『ブラッド・シンプル』でデビュー後ハリウッドに進出したが、二本続けて興行的に失敗。以後インディーズに潜行して、『ファーゴ』『バーバー』などの傑作を連打しているこの兄弟に、クルーニーはハリウッド・リベンジのチャンスを与えたのだ。
  結果は大成功。クルーニーとキャサリン・ゼタ=ジョーンズの二大スター競演のコメディとして面白く、コーエン兄弟らしい毒のある笑いやテイストも健在。作家性と娯楽性がうまく融合した傑作に仕上がっている。
  クルーニーの役回りは離婚訴訟専門の辣腕弁護士マイルズ。『風と共に去りぬ』のクラーク・ゲーブルのような出で立ちで、いつも歯の白さを気にしている伊達男。一方キャサリンが演じるのは慰謝料目当てで金持ちをたらし込んでは、結婚と離婚を繰り返す、セレブ志向の結婚詐欺師マリリン。この二人が対決し、マイルズはマリリンの要求をことごとく粉砕。慰謝料ゼロで離婚を成立させてしまう。
  怒ったマリリンは次のターゲットにマイルス本人を選ぶ。苛烈なフェロモン誘惑攻勢に、マイルスはコロッと落ちてしまう。ところが弁護士と詐欺師、人を騙すプロとして相通じる二人には、不思議な愛情が芽生え始め…
  どこまで本気でどこまでがウソか分からない、二人の恋の駆け引きはトリッキーでスリリング。脇を固める役者陣もアブナくてキレかかった役を悪ノリスレスレで怪演。そこをイヤミにせず、スマートに見せる演出はコーエン監督の面目躍如。全編を流れる音楽も軽快に弾み、ラストまで一気に見せる。
  デートに良し、一人で見て良し。誰の目にも楽しめる痛快作。GW陰の本命である。大作ばかりがハリウッド映画じゃないぞ!

(4月10日より東京・有楽町 日劇1ほか全国東宝系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』 2004年 No.15  4月13日号]


スパニッシュ・アパートメント(2003,フランス)
★★★

  デビュー以来、確実に良質なラブ・コメディを量産し、フランス映画界のホープとなったセドリック・クラピッシュ監督。久々の日本公開となる『スパニッシュ・アパートメント』は、エリート大学院生たちが、スペインのバルセロナで一年の留学生活を送り、自分を見つける物語だ。
  確かに主人公のグザヴィエ(ロマン・デュリス)は、25才にもなって親の言いなり。彼女のマルティーヌ(オドレイ・トトゥ)も、彼の煮え切らない態度にイライラしている。
  そんな彼は、バルセロナで下宿も見つけられず、転がり込んだ先が、ヨーロッパ各国の学生たちが共同生活を送る「スパニッシュ・アパートメント」。何カ国語もが飛び交い、人種や文化、生活習慣の違いがぶつかり合うアパートは混乱のるつぼ。そこで自分の居場所を確保してゆくうちに、若き人妻(ジュディト・ゴドレーシュ)との不倫、レズの女の子との友情を育みながら、優柔男は、真の自分を見つけてゆく。
  日本でもファンが多いロマン、オドレイ、ジュディットなどの若手有名俳優に加え、ヨーロッパ中から集まったフレッシュな俳優陣が、とてもヴィヴィッドで魅力的。EU統合後の現代ヨーロッパの青春が、活き活きと伝わってくる。
  ラスト、パリに戻ったグザヴィエが取る選択は、宙ぶらりんな自分に焦燥感を抱いている日本の観客にも、ジンとくる感動をもたらしてくれるはず。「年取っちゃったぁ」と感じている青春少年・少女に強力にお薦めしたい、フレッシュな一本だ。

(4月3日より東京・有楽町 シャンテ・シネにてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』 2004年4月号より抜粋・再構成]




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