Office NESHA presents movie guide
Jul./Aug. 2002

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
詳細はこちらをご覧下さい

作品タイトルをクリックすると、紹介記事にジャンプできます。

ベルリン・アレクサンダー広場
猫の恩返し
プロミス
スターウォーズ エピソードII/クローンの攻撃

One Point Critics
オースティン・パワーズ――ゴールド・メンバー/ウィンドトーカーズ
トータル・フィアーズ/アイス・エイジ/ノン・ストップ・ガール
海辺の家/スチュアート・リトル2/ダスト
海は見ていた
メン・イン・ブラック2



ベルリン・アレクサンダー広場(1980,西独-伊)
★★★★1/2

  この夏、最大の映画イベントである。全13部、上映時間14時間55分。パゾリーニ、ゴダールと並び称された戦後ヨーロッパの急進派監督、故ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの代表作が、初めて全編日本語字幕付きで上映されるのだ。
 1980年にテレビ用に製作されながら、世界の主要映画祭で上映されスキャンダルと賞賛の嵐を巻き起こし、今日なお欧米では上映されるだけで熱狂を生んでいる。正規ビデオやDVDは未発売なので、この機会を逃すと、次にいつ見られるか分からない、文字通り「伝説」の映画だ。
 恋人殺しの罪で服役を終えたフランツ・ビーバーコプフが、新しい人生を求めながら、破滅してゆくドラマが、ナチス政権奪取前夜のベルリンを舞台に展開。サイコ・スリラーと癒し系感動物語の要素が同時に炸裂し、二一世紀の現代と寸分違わぬ荒廃感と純情が漂う。90年以降の映画の流れは、すべてこの作品によって先取りされていたと言って過言ではないほど、現代的でアクチュアルな世界だ。
 時にはメロドラマ風、時にはサスペンス風、はたまたサイコ調とスタイルを替え、果てはロックとルネッサンス芸術が渾然一体となる表現は衝撃的。しかもインテリ系映画にありがちの気取った難解さは皆無。不気味なまでの分かりやすさと、前衛的芸術性が両立した、奇跡の映画である。
 しかも鬼才ファスビンダーは、登場人物たちの弱さを容赦しない。不況と混乱の渦巻く都市が、フランツにこれでもかとばかりに襲いかかる。カオスのなか、環境と、自分自身と戦い、生きようする登場人物の生々しい汗が、画面から飛び散ってくるようだ。
 現代の映画には、この人間の凄絶な生々しさがないのだ。物語と監督と俳優とスタッフが一丸となり、命懸けで一本の映画に魂を込めてゆくエネルギーが、全編に漲っている。
 交通費と宿泊費を払って見る価値のある作品。この燃焼度の高い人間ドラマの後では、現実すらも生ぬるく感じることだろう。


(8月26日よりアテネフランセ文化センターにて公開後、今秋ユーロスペースにてレイト・ロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』Nos.34-35, 2002年8月20/27日号]


猫の恩返し(2002,日本)
★★★1/2

  スタジオ・ジブリの最新作は、絵を見て分かるとおり、宮崎駿監督作品ではない。若いスタッフの三八才、森田宏幸の監督デビュー作だ。
  完成した映画は『千と千尋の神隠し』のパワーや、『ホーホケキョ となりの山田くん』の高度な芸術性とは無縁の世界。少女と猫という取り合わせは呆れるほど凡庸だし、「猫の国」という言葉が登場してくると、大島弓子の『綿の国星』を思いだし溜息を吐く人もいるかもしれない。
  この上映時間75分の作品で、作り手たちが目指すのは、長編アニメ映画の原点回帰である。「大人向けの観賞に耐える」という美名の下に、子供を楽しませ、次世代の観客を育てることを忘れつつある日本アニメ界に、勇気ある挑戦を試みている。
  全編は徹頭徹尾の直球勝負。「アニメはこんなに凄いんだぞ!」と力むことを禁じ手に、「こうしなきゃ子供に分からない、楽しめない」という大人の知性で、次の世代に夢を語り継ぐため、当たり前のおとぎ話の世界を、理屈抜きで繰り広げる。
  しかも絵本作家を夢見る女どもが好むような、やわなリリシズムは皆無。近年の宮崎作品に見られる、厚塗りの息苦しさがないのも好感が持てる。『長靴をはいた猫』など、往年の日本アニメの傑作の系譜に連なる世界が、懐かしくも快い。
  ラストではジブリのお家芸、空中ダイビングが展開。おとぎ話がファンタジーに解放される瞬間はやはり胸が躍る。あくまで子供向け作品なので、本誌の読者に「絶対見ろ!」とは言わない。だが彼女や親戚の子供が「見たいっ!!」と叫んだら、連れて行ってやれ。帰り道で満面の笑顔を浮かべる女子供を見るのも、男の歓びであろう。
  公開当時は話題にならなかった『ルパン三世・カリオストロの城』が、後にバイブル化したように、『猫の恩返し』は、二一世紀初頭の子供たちの、心のふるさとになるかもしれない。


(7月20日より日比谷映画他全国東宝洋画にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.32, 2002年8月6日号]


プロミス(2000,アメリカ)
★★

  人間の好き嫌いには、本当に生理的なものと、教育や環境で植え付けられた先入観がある。ニンジンやピーマンが嫌いというのは前者の例だが、国や文化の好みとなると、後者の要素が相当入ってくる。
  イスラエルの多数民族ユダヤ人と、パレスチナ人の対立は、二千年以上にわたる怨恨の歴史をもち、いまなお泥沼の武力衝突を繰り広げている。度重なる和平交渉の失敗と、双の強烈な憎しみの言葉を聞くと、「これは複雑な問題で、簡単には解決しないな」とお手上げモードになってしまう。そんな認識に大きな疑問を投げ掛ける作品である。
  二十世紀末に、イスラエルに住む、ユダヤ人とパレスチナ人の子供たちを取材したドキュメンタリーだ。金持ちの子供、宗教的指導者の息子、政治犯の娘、目の前で友人を兵士に撃ち殺された少年。単にイスラエル、パレスチナ双方を対比させるだけでなく、様々な境遇の子供たちの姿を追い、イスラエル社会を浮き彫りにしてゆく。そこに現代の日本人には想像もつかない、憎しみと苦悩、そして理想がにじみ出る。
  幼い子供が「敵の子供は、大人になったら兵士になってぼくらを殺すから、子供のうちに殺しておくんだよ」と、無邪気に笑いながら語る様子は、想像を絶するほど怖い。子供たちの言葉や表情は、大人による教育が、判断力の覚束ない子供たちに、無批判な憎しみを植え付けているという現実にゾッとする。
  更に双方の指導者が、貧困層の不満が体勢批判に向かわないように、民族問題をわざと煽り、自分たちの保身の道具として利用していることが、徐々にはっきりしてくる。
  後半、監督の手引きで、両民族の子供たちが対面する。一緒にスポーツをして仲良くなるのに、お互いの味わった悲劇が、友情を引き裂いてゆく。その別れは、たまらなく重い。
  遠いパレスチナの混乱が、ストレートに胸を直撃する問題作。どんなホラー映画よりも背筋が寒くなる。この夏一番怖い映画である。


(7月13日より東京・BOX東中野にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.30, 2002年7月23日号]


スターウォーズ エピソードII/クローンの攻撃(2002,アメリカほか)
★★★1/2

  個人的には過去4本の『スターウォーズ』サーガは、大して面白いと思わない。マニアたちのオタクなノリにも付いていけない。だから今回も、半ば義務感、半ばアラ捜しをしてやろうと、ヨコシマな気持ちで見に行った。
  ところが2時間22分の長尺がアッという間に終わってしまった。こんなに面白く、手応えのあるアクション・スペクタクルは『グリーン・デスティニー』以来だ。
  たしかに冒頭にシリーズ特有の固有名詞が飛びかうので、ファン以外は科白を追いきれないかもしれない。『エピソードI』で予習して行った方が無難である。
  だがそれを越えれば、高層ビルが林立する宇宙都市での。空中大追跡戦が待っている。『ブレードランナー』『マトリックス』を通過した、都市のデザインとスピード感に、「これが『スターウォーズ』か!?」とびっくり。
  テレビ・ゲーム的バトル感は後退しているので、残念に思うマニアも出てきそう。つまり過去のどの作品よりも、チャチなオタク性を抑えて、最新技術をドラマに奉仕させ、観客を楽しませようとする、職人的工夫が満載なのだ。
  謎の惑星にある円形劇場からの救出劇、質感豊かな宇宙船と大量のクローン兵士が躍動する超重量戦闘シーンは、これがCGかと目を疑うほど。壮大な宇宙戦争絵巻が、スクリーンがいつもより大きく感じるほどの迫力で、堂々と繰り広げられる。実写とCGが融合し、渾然となった映像世界は、眩暈と陶酔へと誘う。
  しかも三部作の第二作にありがちな、出し惜しみがない。ひとつだけ、次回作につなぐ唐突な挿話があるのが残念だが、全編の満足感を損なうような邪魔はしていない。ラストのチャンバラ三連発まで、この一本でパシッと落とし前を付ける脚本、演出が爽快。
  現代テクノロジーの粋を武器に、大人の鑑賞に堪える大作に仕上げた力量はあっぱれ。アンチ『スターウォーズ』派も、騙されたと思って劇場に足を運ぶべし。


(7月12日より東京・日劇1他全国東宝洋画系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.26, 2002年6月25日号]



One Point Critics


オースティン・パワーズ――ゴールド・メンバー(2002,アメリカ)
★★

  関根勤のギャグで笑える人には、コサキン並みの至福の時が待ってますが、あんなの芸じゃない!と怒る人は、金輪際見てはいけません。第一作のスマートな脚本は望むべくもないものの、二本目よりはずっと上出来。金をかけたスキのなさが、ギャグのセンスと不調和な箇所はいくつかあります。
(8月23日より渋谷東急他全国東急・松竹洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年8月14日号より]

ウィンドトーカーズ(2002,アメリカ)


  文章を書いていて困るのは、ひどい映画を見た不快感や怒りをぶつけると、「そこまで言うなら」と、読者が好奇心を起こして見に行くケースがあること。なので今回は、星取評子としては反則なのだが、内容について一切書かないことにする。怒りを通り越して眠くなった、と書くと不眠症の読者が見に行くか……?
(8月23日より渋谷パンテオン他全国東急洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年8月14日号]

トータル・フィアーズ(2002,アメリカ)
★★

  ジャック・ライアンより、彼の陰で汚いスパイ仕事で活躍するCIA工作員、ジョン・クラークがかっこいい。雨の空港の登場場面から、男がぐっと来るスパイの魅力をシュライバーガ好演。原作の出来はいざ知らず、クラーク主役の小説を同キャストで映画化して欲しい。その存在感の前では、メインの筋がかすんだ。
(8月10日より日比谷スカラ座1他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年7月31日号]

アイス・エイジ(2002,アメリカ)
★1/2

  物語の基本構造は、出来の悪い『モンスターズ・インク』、メイン・キャラの動きは『ライオン・キング』。ここまで似ていると、この映画でしか見られないものも欲しいのだが、子供の母親を無意味に死なせたり、脚本を練るセンスにも欠けている。氷の洞窟の大滑り台は面白かったが、それたけで偉そうな顔はできまい。
(8月3日より全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年7月31日号]

ノン・ストップ・ガール(2001,米)


  要するに逆ストーカーの話。ヘザー・グラハムのプロモ・ビデオとして楽しめ。

(8月10日より渋谷シネ・アミューズにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年7月31日号]

海辺の家(2002,アメリカ)
★★★

  米国版、逆『岸辺のアルバム』あるいは『早春スケッチブック』か。巻頭の現代性を意識した演出とカメラ・ワークに苛立ったが、曲者俳優が人間を表現しはじめると、映画の重心が低くなってくる。凡百の癒し系ハリウッド感動作とは違って、人間的弱さを甘やかさずに肯定してゆく展開が巧い。山田太一より現実的な解決にカタルシスを覚えた。
(7月20日より丸の内ピカデリー2他全国松竹洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年7月17日号]

スチュアート・リトル2(2002,アメリカ)
★1/2

  子供向け作品としては合格点だが、大人に薦められるほどではない。映画としての見せ場は『トイ・ストーリー』シリーズ、『チキンラン』『ビアンカの大冒険』など、他の映画のアイデアをいただいたものばかりとはいえ、下手に新機軸を狙わずまとめた手腕は買える。敵役ファルコンの大きさが表現できていないのが残念。
(7月20日より東京・日劇3他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年7月17日号]

ダスト(2001,英―独―伊―マケドニア)
★1/2

   監督に前作の冴えはないが、最初40分を我慢すれば、異色西部劇が楽しめる。
(7月13日より恵比寿ガーデンシネマにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年7月17日号]

海は見ていた(2002,日本)
★★

  黒澤明が山本周五郎の小説を基に、第一稿シナリオを遺していた『海は見ていた』。監督の熊井啓は社会派として売り出し、最近は文芸映画中心に堅い映画ばかり作っている人だが、今回はそのクセがほとんどない。時代劇・江戸の遊女ものとしては大いに不満があるが、ラスト30分の嵐と洪水の場面は圧巻。主要スタッフは黒澤の現場を知らない人が多いようだが、実力以上のパワーを発揮。映画館でないと味わえない迫力がある。木造家屋の屋根が吹き飛ぶ中、奥田瑛二と永瀬正敏が見せる男の対決がいい。
(7月29日より渋谷東急他全国東急・松竹洋画系にてロードショー)
[メディア・ファクトリー『ダ・ヴィンチ』2002年7月号より]

メン・イン・ブラック2(2002,アメリカ)
★1/2

  M・ジャクソンがCGに見える。そっくりCGと思ったら、本人のカメオ出演だと後で知りびっくりした。整形を重ねた顔はSFX映画に出ると、リアリティを失うのか……映画はストーリー性を持たせたのが裏目に出て、バカに徹していた一作目より、脚本・撮影・装置・編集のゆるさが目立つ結果に。つまり今のマイケルの顔みたいなもの。
(7月3日より渋谷パンテオン他全国東急・松竹洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年6月30日号]



(c)BABA Hironobu, 2002/ 2021. All rights reserved.
本サイトのすべてのソースを、作成者の許可なく転載・出版・配信・発表することを禁じます。


ムービー・ガイド表紙に戻る

オフィス・ネーシャ トップ・ページに戻る