Office NESHA presents movie guide
Aug./ Oct. 2000

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
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オー・ブラザー!
タイガーランド
ルムンバの叫び
ドリヴン
テルミン

One Point Critics
ジュラシック・パークIII/DENGEKI 電撃
ブリジッド・ジョーンズの日記/ファイナル・ファンタジー/ブロウ
ラッシュアワー2/コレリ大尉のマンドリン/ビバ!ビバ!キューバ
トゥーム・レイダー/ドラキュリア
ワイルドスピード/キャッツ&ドッグズ/エスター・カーン めざめの時



オー・ブラザー!(2000,アメリカ)
★★★

  ワザとらしいウソのことを、「子供ダマシ」というが、現実にはありえない大ウソに「そんなの、ウソだーい!」と言いつつ喜んで聞いてしまう。その歓びは大人たちのなかにも生きている。健全な娯楽精神の原点はここにある。

  厚顔無恥なホラ話を、徹頭徹尾語り通す。映画に限らず、フィクションの極意のひとつはこの大ウソ。そんなウソつきホラ話の醍醐味を味合わせてくれる作品が現れた。

 『オー・ブラザー!』は『ファーゴ』以降ドラマの語り口がグンとうまくなったコーエン兄弟の新作。なんと古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を、30年代アメリカを舞台に映画化した作品……との宣伝文句である。

  が、ファンならここでニヤリとするだろう。ご想像の通り、この宣伝文句自体が大ウソ映画を作るための口実。開巻からラストまで、百千万言ウソで塗り固めた、冒険コメディである。

  ジョージ・クルーニーが『風と共に去りぬ』のクラーク・ゲイブルそっくりの出で立ちで、なんとチンケな脱獄囚役で登場。脱獄の相棒はジョン・タートゥーロら曲者俳優がひしめく。

  そこに『ビッグ・リボウスキ』で見せた、チープな題材をゴージャスに飾る美術と映像で彩るとあら不思議。コテコテだけどスマート、泥臭いけどスタイリッシュ、巨大な箱庭のような人工世界が弾け飛ぶのだ。

  人間がカエルに化ける。白人至上の人種差別主義者が騒ぎを起こす。脱獄囚が歌ったカントリー・ソングが、テレビのない時代にヒット・チャート1位に輝く……

  こんな、何の脈絡もないエピソードが、次から次へと、おもちゃ箱をひっくり返したように雨アラレと降ってくる。この快感は、子供の頃、昔話や絵本に覚えた、ワクワクドキドキ感である。

  ちょっと懐かしい手触りがあって、今風のドライブ感も満載。これぞ大人のためのテーマ・パーク。問答無用の見世物小屋だ。ここはひとつ、縁日の夜店を冷やかすような軽い気持ちで楽しもう。

(10月20日より銀座テアトルシネマ他にてロードショー)

[集英社『週刊プレイボーイ』No.44,2001年10月20日号]


タイガーランド(2000,アメリカ)
★★1/2

  本気でヤバイ。この記事が出る頃には、アメリカは戦争を始めていそうだ。当然テロの犠牲は痛ましいが、「何もそこまでやらなくても」というのが本音である。

  一度戦争になってしまったら、世論というのは「やれ!やれ!息の根止めちまえ!!」というところまでエスカレートするもの。最近のアメリカの報道は、すでにそんな匂いが濃厚だ。戦争状態という、ふだんの冷静な判断というのがふっ飛んでしまう、集団狂気の世界に近づいている。

  集団狂気の最たる場が、究極の殺人集団、軍隊である。この映画は、ヴェトナム戦争期、徴兵されつつ軍の中で、自分らしさを守り続けようとした、男たちの物語である。

  舞台は出征前の、アメリカ国内の訓練所と演習地だけ。人間を将棋の駒のように扱う軍隊で、実戦前の訓練でフラフラになる。生き残るための武器は体力だけ。「かっこよく、男らしく戦ってやろう」と意気込んでいた新兵も、ひ弱な奴らは逃げ出したくなる。

  そんななか、主人公ボズは、軍規の裏をかき仲間を除隊させる知恵を授け続ける。あざといやり方で上官に反抗し、自分は絶対除隊させてもらえなくなり、脱走計画を練り続けている。

  ところが、映画の後半で話がねじれる。ボズは自ら進んで、ヴェトナムの戦場へと出征してゆくのだ。

  主人公の意志が外見上180度変わってしまう展開。なのに映画を見ていると、観客の方もその変化を納得できてしまう。

  そこが恐い。自分の、仲間と生死がギリギリまで追い込まれたとき、人間らしさを守ろうとした行動の結果、もっとも嫌っていた戦争に自ら参加することになるプロセスは、皮肉という言葉ではすまされない。

  日本の自衛隊を展開したがっている政治家の行動がきなくさいいま、この映画の世界は他人事でないかもしれない。その意味で現代を生きるすべての男にとって必見の一本。徴兵されてから文句を言っても手遅れなのだから。

(10月6日より11月2日まで、シャンテ・シネにてロードショー)

[集英社『週刊プレイボーイ』No.38,2001年9月11日号]


ルムンバの叫び(1999,仏―独―ベルギー―ガーナ)
★★1/2

  アフリカはコンゴ共和国、独立後初の首相にして、謎の死を遂げた伝説の人物、パトリス・ルムンバを主人公とした実話の映画化。地味な社会派映画を想像して見に行ったら、冒頭のシーンで一気に引き込まれた。

  主人公ルムンバはいきなり誘拐の上暗殺され、犯人たちの手で遺体を切り刻まれてしまうのだ。背筋が寒くなる、野蛮で残酷なオープニングだ。

  実はコンゴ共和国は、知る人ぞ知る、アフリカ一の政情不安定国。しかも国軍の残忍さは世界的に有名。独立後40年以上を経たいまも、無抵抗の住民の大量虐殺などで、不名誉な評判をとっている。

  この21世紀になぜ、いまなお血の惨劇が続いているのか? 作品が進むにつれその理由と、貧しきアフリカの悲劇が、姿を表わす。

  コンゴは貧しさからの脱出と変化を望んで、独立を選んだ。軍人も一般国民も、独立さえすれば、豊かで平和な、自分たちが主役の生活がやってくると信じていたのだ。

  しかし政治家たちはあまりに経験不足で、理想もバラバラだった。「さあ、これからは自分たちでやるぞ!」と決めたはいいが、内閣や議会も意見が割れて収拾が付かない。欧米は自分たちの権益を求めてなにかと介入してくる。企業家は儲け優先で国民全体のことをなんにも考えてない…

  かくして新しい独立国は、分裂と内戦に突入してゆく。そこからはこの世の地獄が展開する。近未来SFのような絵空事ではない、現実のカオスが襲いかかってくる。

  潔癖なルムンバの理想主義を、生々しい欲望と一体となった幸福への願いが打ち砕いてゆく逆説に言葉を失う。歴史の歯車が食い違い出したときに起こる、人間の暴走ぶりは、どんなホラーよりも恐ろしい。

  未来に希望を持てず、新首相に圧倒的支持が集まるこの国も、意外にコンゴと近づきつつあるのかも。我慢が限界点に達したときに社会に訪れる、最悪の未来をこの作品で予習しておくのも、無駄ではなさそうだ。

(9月15日より10月19日まで、BOV東中野にてロードショー)

[集英社『週刊プレイボーイ』No.38,2001年9月11日号]


ドリヴン(2001,アメリカ)
★★1/2

 『ダイ・ハード2』『クリフハンガー』とヒット作を連発したのに、なぜかレニー・ハーリン監督は映画ファンや批評家の受けが悪い。続く作品は金だけかけた凡作扱いされ続けている。
  だが世の中には不当な評価に負けない、隠れレニー・ハーリン信者も結構いるのだ。
  彼の最大の魅力は、デジタルをおもちゃにしてしまうアナログ武闘派感覚。『マトリックス』以降、人間の肉体すらCGのマテリアルにしてしまおうとする時代の流れに逆行し、わざと作り物めいたチャチな合成映像を駆使し、泥臭いほどに古風な人間ドラマと正面衝突させる快楽である。
  スタローン自ら「アイルトン・セナに捧ぐ」と書き下ろした脚本には、『ロッキー』以来のウェットで暗い部分があるが、ハーリンの演出がそのイヤミを見事に中和。野望と金と女と名誉が渦巻くオート・レースの世界で、激突する男の意地が痛快に炸裂だ。
  脇に美形の若手スター、キップ・パルデュー、精悍なマスクのドイツ人ティル・シュワイガー、かつてのアクション・スター、バート・レイノルズ、さらに『猿の惑星』で注目の美人女優エステラ・ウォーレンと、渋いが実のある豪華キャスト。彼らが繰り広げる人間模様が、実に男の痛い所を突いてきて、期待以上の見応えがある。
  最大の見せ場は、ハーリン演出が冴える爆走場面。マシンが虚空に舞い上がり、地面に激突する迫力は言うまでもなし。さらに市街をマシンが疾走する場面では、マンホールが空に跳ね上げられ、歩道に立っているギャルのスカートがボワッとめくれ上がる。
  これは、昔の東宝特撮ものの精神にも通じる、科学実証完全無視、リアリティなどクソ食らえの、荒唐無稽な見世物のオン・パレード。映画が活動写真と呼ばれていた時代の、トンデモ系の驚きに溢れた、愛すべきスペクタクルである。
  時代に決しておもねらず、時代の最先端技術を徹底的に遊ぶハーリンの映画屋魂。そのしたたかな心意気が最高なのだ。
(8月18日より、渋谷東急他全国東急・松竹系にてロードショー)

[集英社『週刊プレイボーイ』No.36,2001年8月28日号]


テルミン(1994,アメリカ)
★★★

  新しい時代の息吹に満ちたニューヨークから、ある日テルミン博士は忽然と消えた。半世紀以上を経て、齢90にして再度ニューヨークに降り立つテルミン博士。その老いと苦渋の表情に、ヘタなドラマを越えた重さがある。
  20世紀、科学は政治や戦争の道具としても重要になる。シンセサイザーの前身として最近注目の楽器、テルミンの発案者は、旧ソ連の国威を示すためにニューヨークで活動。謎の帰国の後、盗聴器の発明でスターリン勲章を受けている。トンデモ楽器の陰には、米ソ冷戦の暗部がのしかかっていた。
(8月11日より、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー)

[メディア・ファクトリー社『ダ・ヴィンチ』2001年9月号より]



One Point Critics


ジュラシック・パークIII(2001,アメリカ)
★★1/2

「見せすぎないのも芸の内」

  退屈しないが、面白いわけではない。物語と演出はテレビの特番ドラマと同レベル。話題のCGによる戦闘シーンは意外とチャチで拍子抜け。「国辱」と問題になっている日本人の描写も、よくあるパターン。ムキになって批判する必要はないけれど、薦めたい見所もない。ビデオになるまで待ってもよいのでは?

[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年8月1日号]

DENGEKI/電撃(2001,アメリカ)
★★1/2

「この安定感は貴重かも」

  山っ気を出して失敗すると、お家芸のはぐれ刑事ものに回帰するセガール。アクション・スターとして、決して観客を裏切らない十八番を確実に見せてくれることを支持したい。ラップとマーシャル・アーツのコンビネーションは『ロミオ・マスト・ダイ』より成功。セガール嫌いには薦めないが、ファンならきっと満足。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年8月1日号]

ブリジッド・ジョーンズの日記(2001,英―米)
★★

「女の、女による、女のための話」
  秋月りすの『OL進化論』の映画化みたい。どうってことないラブコメを、世界市場を意識して、金と手間をかけ商売できる劇場映画に仕上げた力は買える。女性に受けるのも納得の出来だが、私のようにヒロインのキャラに魅力を感じられないと「だからどうした」で終わってしまう。1時間38分が長く感じられた。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年8月28日号]

ファイナル・ファンタジー(2001,日―米)

「やはりゲームの方が面白い」
 実写作品にこれだけCGアニメが合成されているご時世に、「フル3DCGアニメ」と言われても目新しさはない。物語と脇のキャラが凡庸で映画としては空振り。せっかくのボイス・キャストがもったいない。音響設計が少し面白いが、正直、少女が主人公の近未来ものはもう打ち止めにしてくれないか?
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年8月28日号の第一稿]

ブロウ(2001,アメリカ)
★★

 スコセッシ大好き監督が、デ・ニーロ気取りのデップと組んだ映画ごっこ。それだけ。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年8月28日号]

ラッシュアワー2(2001,アメリカ)
★★★

「夏バテ解消に最適の快作」
  文句なしに前作以上。軽いB級映画のストーリーを、丁寧な脚本と演出、当を得たキャスティングでパシッと見せる。90分間中だるみなし、ラストに向けて盛り上がる、ワザありの一本。製作費が売りの大作もいいが、こういうタイトで笑える娯楽アクションがもっと見たい。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年9月13日号]

コレリ大尉のマンドリン(2001,米-英)
★1/2

「『パール・ハーバー』にも劣る」★★
  現実の戦争の悲劇を侮辱している。二度の進駐を受けた後、大地震で破壊された、ギリシャの島の悲惨な実話を、村人の生活と思いを無視し、腑抜けたラヴ・ストーリーにした罪は大きい。娯楽映画としてもミス・キャストをずらり並べ、平板な語り口に終始。それでいて文芸映画を気取る、無責任な傲慢さが許しがたい。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年9月13日号]

ビバ!ビバ!キューバ(1999,キューバ-スペイン)
★★

  スペイン風コテコテ・コメディに南米のドギツイ色彩とキャラの明るさがマッチ。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年9月13日号]

トゥーム・レイダー(2001,日-独-米)
★★

「ゲームのドライブ感はある」
  RPGのアイテム探しやバトル系の快楽を、多少でも映画で初めて体感できた。敵の攻撃を受けなかったり、キャラが成長して技を覚えたりしないので、後半に進むにつれ、食い足りなくなるのは仕方ないか。デジタル音響のこけおどしは、ない方が楽しめそう。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年9月28日号]

ドラキュリア(2001,アメリカ)
★1/2

「B級映画の変質を象徴」
  CG時代に入り、大予算映画とB級作品で、映像の迫力には差がなくなってきた。違いは出演スターのギャラだけ?そんな技術の向上が、B級ならではの、面白く見せるアイデアを衰退させている気がする。この映画も吸血鬼物である必要がどこにもない、ポップなスリラーだ。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年9月28日号]

ワイルドスピード(2001,アメリカ)

「いいのか、これ!?」
 この映画の論理に立てば、いい人が夢を追うためなら、人を殺してもハイジャックをしても許されることになる。ニューヨークのテロでシュワルツネッガーの新作が公開延期、『明日に架ける橋』を放送自粛する合衆国で、この映画は上映され続けている。娯楽は懐が深い、というのとは別次元で、問題があると思う。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年10月13日号]

キャッツ&ドッグズ(2001,アメリカ)

「ネコの顔がつぶれてるわけ」
  英語圏のアニメは、セリフとキャラの口の動きを合わせる、リップ・シンクができていないと技術力が低いとみなされる。この映画はネコの鼻をひしゃげさせ平らにして、口の動きが分かるようにしているのだが、おかげで顔が不自然になっている。これは本末転倒ではないのか?一事が万事。なにもかも空振り。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年10月13日号]

エスター・カーン めざめの時(2000,仏-英)
★★

  前半に登場するイディッシュ語劇場にびっくり。演劇好きなら見逃せない。
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2001年10月13日号]


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