Office NESHA presents movie guide
Sep./ Oct. 2002

目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
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阿弥陀堂だより
太陽の雫
ジャスティス[B.ウィルス主演]

One Point Critics
容疑者/トリプルX/バルニーのちょっとした心配事
ロード・トゥ・パーディション/エンジェル・アイズ
明日、陽はふたたび
サイン/アバウト・ア・ボーイ/酔っぱらった馬の時間
インソムニア/ル・ブレ/歌え!フィッシャーマン



阿弥陀堂だより(2002,日本)
★★★★

  監督は、あの黒澤明の助監督をつとめ、『雨あがる』で独り立ちデビューした小泉尭史。今年五八才の彼は、この第二作で、自分だけの世界を力強く構築し、大器晩成ぶりを証明している。
  SFXやデジタル大音響など、今のトレンドとは無縁だが、現代の映画が忘れかけている、もうひとつの映画魂を蘇生させる傑作である。個人的にはこれこそが映画なのだ、と断言したい。  いま流行の言葉なら”究極の癒し系”という趣の物語。だが、その場しのぎの慰めではなく、生きる活力と勇気を沸き上がらせてくれる作品だ。
  映画の前半は台詞が極端に少ない。都会から山形の山村に引っ越してきた、中年夫婦(寺尾聰・樋口可南子)の日常が、丹念に描かれる。
  村の四季の変化を敏感に捉え、慈しむような映像に、溜息が漏れる。その溜息はやがて深呼吸に変わってゆく。たとえばハイキングで頂上に着いたときの解放感、静かな海辺で頬を撫でる風と陽射しに、思わず体が震える瞬間。そんな感覚が徐々に襲ってくる。街中の劇場の暗闇が、自然の息遣いに満ちる空間に変質してゆく驚異が体験できる。
  その流れに身を委ねれば、九十才を越える老婆(北林谷栄)が語る人生の知恵も、口がきけない美少女(小西真奈美)の可憐さも、胸に染み込んでくる。そして後半で明らかになる夫婦の「病」にも、問題を乗り越え、解決してゆくドラマにも、素直に共感できる。やさしさと力強さが共存する展開と結末には、爽快感すら訪れる。
  大都会で生活し、キレそうになっているキミ、「自分は心の病気なんじゃないか?」と悩んでいるキミには、効用絶大の“見る薬”となるだろう。そうでないキミにも、生きる確かな意味を再発見する、貴重な一本でなることは間違いない。
  これだけ強靭な映画に“癒し系”というヤワな言葉は似合わない。観客の心を生き返らせ、映画の未来をも切り開いた、“復活の映画”という称号こそが相応しい。


(10月5日より日比谷みゆき座全国東宝洋画系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.41, 2002年10月8日号]


太陽の雫(1999,カナダ―ハンガリーほか)
★★★

  年寄りに昔話を聞かされるのは、だいたいダルい。「お前ら若いから知らんだろうが……」という口調の裏に、こっちを小馬鹿にした態度がアリアリで、「生まれてねえ昔のことを、知らなくて当たり前だろ!?」と逆ギレしたくもなる。
 これはハンガリーの巨匠、サボー・イシュトバン監督が、祖国の二〇世紀を、ユダヤ人家族、ゾネンシャイン家三代の歴史を通じて描く、アメリカ等との合作映画である。と書くと「ジジイのウゼェ昔話」と思われそうだが、一味違う。ヨーロッパの歴史物にありがちの、色気のない重ったるくて地味な作品とは正反対。ハリウッドで活躍中のイギリス人スター俳優を中心に、恋ありアクションあり、ミステリーあり。徹底して分かりやすさと面白さを追求し、今風の大作に仕上がっている。
 ハンガリーはじめ東欧諸国は、ナチス・ドイツ以前から、ユダヤ人差別が強い地帯。そんな偏見を跳ねとばし、初代イグナツは第一次大戦目前に国家の要職に就任。二代目アダムはフェンシングのオリンピック・チームのエース。三代目イヴァンは社会主義政権下で、秘密警察の重鎮として権力を揮う。
 逆境に負けずトップを目指す男たちの生き様に、現代物にはない熱さがある。また、各世代のエピソードの主人公を、全部『イングリッシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインズが演じるという趣向のおかげで、時代背景がくっきり描き分けられて、ヨーロッパの現代史の予備知識がなくても、スンナリ楽しめる。
 彼らは人生の頂点で、歴史の荒波に飲み込まれ、どん底に叩き落とされる。天国と地獄を共に体験し、親子三代、それぞれの運命のもとで、人生最大の究極の選択を迫られる。その瞬間が最大の見所だ。
 ラストでは先祖伝来の生きる知恵の「秘密」が証される。幾多の苦しみを体験し、痛みを知っている人だけが語れる、真のやさしさが、じんとくる。
 年寄りの話は説教臭くなければ面白い、というテーゼを証明する逸品。歴史物ギライのキミにもお薦めである。


(10月12日より東京・銀座テアトル西友にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.39, 2002年9月24日号]


ジャスティス[B.ウィルス主演](2002,米―独―英)
★★★

  2時間6分の上映時間で、冒頭の戦争スペクタクルから、収容所ものの緊張感、法廷ものの頭脳ゲーム、果てはアッと驚く大爆発まで、中だるみなし、見所は満載である。
 だがこの映画、ただの大作とはかなり訳が違う。映画ファンのツボをばっちりクスグル、知的なすぐれものなのだ。たとえば『探偵 スルース』『パワープレイ』『タイム・アフター・タイム』『私家版』というタイトルを聞いて、膝を乗り出すキミなら、舌なめずりしながら喜ぶだろう。
 第二次大戦中、ナチの拷問を受け、ベルギーの捕虜収容所に入れられた、米軍中尉ハートが主人公。彼の入ったラーゲリでは、アメリカの白人による黒人差別が行なわれていた。ナチのユダヤ人差別に怒って参戦したはずのアメリカ兵が、イヤラシイ人種差別主義者だという設定に、まずうならされる。
 その差別主義者が深夜に殺害される。ドイツ兵は黒人士官スコットを犯人とみなし、即刻射殺しようとするが、米軍大佐マクナマラの抗議で、軍事法廷が開かれることに。ハートはスコットの弁護を任される。
 スコットの無罪を証明するには、ラーゲリにある秘密の抜け穴の存在を暴かなければならない。ドイツ軍にそれがバレると、他の仲間が、抜け穴造りの罪で銃殺になってしまう……敵方ドイツ軍の支配と、米軍内の黒人差別。二つの権力を敵に回し、ハートは黒人士官を銃殺の危機から救えるのか?
 その先の展開は、意外に次ぐ意外の連続。次々に観客の予想を裏切りまくる、どんでん返しの波状攻撃。しかも近年流行の、びっくりさせることだけが目的のミステリーと違って、全編の伏線が、後半すべてグッと生きてくるので、ラストの爽快感がたまらない。
 そしてハート役の若手注目株コリン・ファレル、マクナマラ大尉を演じるブルース・ウィリスはじめ、細かい脇役まで、キャストに隙がない。ヤワな女をはねつける、男の火花が飛び散るのだ。
 上質で最高の興奮を約束する、今年の伏兵的傑作。必見である。


(9月28日より渋谷パンテオン他全国東急洋画系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.37, 2002年9月10日号]



One Point Critics


容疑者(2001,アメリカ)
★★1/2

  デ・ニーロ数年ぶりの真剣勝負。重い物語に開巻からしばらくは息が詰まりそうだが、デ・ニーロが演技を始めると引き込まれる。刑事という職業と父の思いが葛藤するドラマは、適度の娯楽性を伴って説得力あり。伏線に社会の偏見との闘いを置き、観客も考えさせ。社会の矛盾と個の苦悩を米国的に生真面目に追う脚本・演出もいい。暗すぎる撮影が難だが、見て損はなし。
(10月12日より日比谷映画他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年10月9日号]

トリプルX(2002,アメリカ)
★★

  前半は今風を狙った展開はユルめで平凡。ところが後半、大雪崩とスノボの追っ掛けをきっかけに、大がかりでタイトなアクションが押し寄せ見応えあり。V・ディーゼルの外見もプラスに働いている。続編ができたら、メイン・キャラ説明を省略できるから、もっとテンポ良く、面白くできそう。
(10月26日より東京・日劇3他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年10月9日号より]

バルニーのちょっとした心配事(2000,フランス)
★1/2

   長年の仏映画ファンならニヤリの俳優陣が、いい芝居を見せる、お気楽コメディ。
(11月12日より東京日比谷・シャンテシネにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年10月9日号]

ロード・トゥ・パーディション(2002,アメリカ)
★★1/2

  NTの『オセロ』はよかったが、ウェスト・エンドの寵児的舞台演出家メンデスは、前作に続き、もっぱら俳優の力量を引き出すことに関心を向けている。その結果トム・ハンクスはとても魅力的だが、ジュード・ロウのメイクや芝居は、映画としてデフォルメが過ぎる。撮影や編集はスタッフにお任せらしく、特徴に乏しく、ややリズムが悪い。後は好みの問題か。
(10月5日より東京日劇1他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年9月25日号]

エンジェル・アイズ(2002,アメリカ)
★★

  物語と無関係な皮膚感覚が身上の、ポーランドの名カメラマン、ソボチンスキの実質的遺作。どんな題材を手がけても、色使いやカメラ・アングルに強い個性を示すマンドーキ監督とウマが合ったか、凡百のトラウマ系ハリウッド映画に比べて、ヴィジュアルと音で個性的作品になっている。しかも物語はクソ真面目なので、この美的感覚にノレないと、拷問のように感じそう。
(10月12日より丸の内ピカデリー1他全国松竹・東急洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年9月25日号]

明日、陽はふたたび(2000,イタリア)
★★

  災害や事故、疫病という突然の悲劇に襲われたとき、人は「日常」を回復しようとするようだ。『明日、陽はふたたび』は、日本の阪神・淡路大震災同様、被害の大きさで世界に衝撃をもたらした、イタリアはウンブリア州の大地震を題材にとっている。仮設住宅のなかに、バールや美容院まであったり、復興にもお国柄があると分かって面白い。女性監督アルキブージは、少女の初恋や不倫疑惑などの恋愛模様を織り交ぜ、地震に負けず日々の人生を楽しもうとする、イタリア人気質を発揮している。
(9月29日より東京・岩波ホールにてロードショー)
[メディアファクトリー『ダ・ヴィンチ』2002年10月号]

サイン(2002,米―独)
★1/2

  絵画的構図と皮膚感覚に訴える色彩感覚が、ハマる人にはたまらない魅力がありそう。だがストーリーは「えっ、本当にそういう話だったの!?」という展開。『シックス・センス』の面白さは、やはりフロックだったのか。好き嫌いがはっきりしそうな作品。個人的には退屈しなかったので星オマケするが、娯楽映画としては……うーん。
(9月21日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年9月11日号]

アバウト・ア・ボーイ(2002,米―英)
★★1/2

 『ブリジット・ジョーンズの日記』までの作品に比べて、語り口が流麗でもたつかない。役者も美術も達者で、水準をクリアしている。ただこのチームの映画がいつも提示する、ロンドンの「負け犬助け合い的コミュニティ」像に、生理的嫌悪感を抑えられず素直に楽しめなかった。でも評価と好悪は別ということで、敢えて★を甘くする。
(9月14日より東京・日劇3他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年9月11日号]

酔っぱらった馬の時間(2000,イラン)
★★

  真面目できちんとした映画。しかし表現に個性が感じられず、後に残る印象は薄い。
(9月下旬より東京渋谷・ユーロスペースにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年9月11日号]

インソムニア(2002,アメリカ)
★★

  猟奇物やサイコ・スリラーを期待すると失望するだろう。アラスカの自然を最大限に生かした撮影が美しく、陰惨になりがちの題材をハリウッド的万人向け映画にまとめることに貢献している。そのヌルさを批判するより、商業性の健全な成果と評価したい。ただ、不眠症という設定は生きていないし、パチーノはクドイ。
(9月7日より丸の内ピカデリー1他全国松竹・東急洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年8月28日号]

ル・ブレ(2002,仏―英)
★1/2

  フランス=パリではないことを忘れてはいけない。かの国で受けるのは、ヴァカンス感覚をもった荒唐無稽コメディ・アクション。これを「帝国主義的植民地侮蔑意識丸出し」と批判するのは野暮の骨頂。ベッソン製作映画よりダサいテイストがむずがゆくて、クセになるかも。劇場で是非、と薦めにくいことは事実だけど。
(8月30日より日比谷みゆき座他全国東宝洋画系にてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年8月28日号]

歌え! フィッシャーマン(2001,ノルウェー)


  極北の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。後半の旧ソ連ツアーがオツ。
(9月7日より渋谷シネクイントにてロードショー)
[東京ニュース通信社『テレビブロス』2002年8月28日号]


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