目次
(この色の作品は★★★★以上獲得作品です)
レイティングは★★★★★が最高点。
詳細はこちらをご覧下さい
作品タイトルをクリックすると、紹介記事にジャンプできます。
最後通告
クリクリのいた夏
サイダーハウス・ルール
太陽の誘い
白い花びら
エニイギブンサンデー
ナインスゲート
(7月29日よりユーロスペースにてロードショー)
クリクリのいた夏(1999,フランス)
★★★
ルコントの『仕立て屋の恋』やシャブロルの『主婦マリーがしたこと』と、フランスでは長年商業娯楽映画ばかり作ってきたスタッフが「ここ一番!」というときに、桁違いの感動作を放つことがある。
この映画も監督は『エリザ』のジャン・ベッケル、脚本は『さらば友よ』のセバスチャン・ジャプリゾ、音楽はあの『エマニエル夫人』のピエール・バシュレ。いわば30年間フランス娯楽映画の屋台骨を背負ってきたオヤジどもが結集。「ベッソンたち若造には負けんぞ」とアクションを作った、と勝手に予想していた。
ところが完成したのはジミめの人間ドラマ。これが意外なスグレもの。キミの胸を直撃、炸裂する、感動のクラスター爆弾なのだ。
テーマは「貧乏でも、みんな幸せ」。第一次大戦から十年余、社会が過渡期に差し掛っていたフランスの地方都市と郊外を舞台に、少女クリクリの目を通して、頑張って生きる大人たちを描き出す。
第一次大戦で心に傷を負った風来坊ガリス、ワイフに逃げられ、なにをやっても間抜けなどん臭いリトンは、沼地のほとりでその日暮しの日々。そこに成金の爺さんや、人の良い老婦人、荒っぽいボクサーなどが絡み合い、ちょいとワケあり、喜怒哀楽豊かな人間模様が展開。
同時に「春が来るのは素敵なことだ」「花は生活を豊かにしてくれる」「雪はこんなに美しい」と、ふだん忘れがちな世界の素晴らしさを、さりげに随所で再確認させてくれる。それをノスタルジーに終わらせず、「本当はみんな仲良くやれるんだよ。だからあんまりキレずに、のんびり行こうぜ」と、疲れたキミの心にエールを送ってくれる。
注目は『奇人たちの晩餐会』で日本でも一部で絶賛された、現代フランス最高の人気俳優ジャック・ヴィユレ。アメリカの喜劇役者とは違った、懐の深い演技力でリトンを演じ、強い印象を残す。要チェックの名優だ。
コメディとしても存分に笑え、少女クリクリと少年ピエロの淡い恋など、心憎いエピソードもきっちり抑え、デートにも持って来い。この夏一番の注目作である。
(7月8日よりBunkamuraルシネマにてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.29,2000年7月18日号]
サイダーハウス・ルール(1999,アメリカ)
★
小説家ジョン・アーヴィングは映画『ガープの世界』『ホテル・ニューハンプシャー』に、よっぽと腹が立ったのだろう。85年に刊行された『サイダーハウス・ルール』は、映画化が決まる前から、自ら脚本を執筆していたのだ。
ところが出来上がった脚本には、原作のテイストや感動が微塵も残っていない。「心臓をえぐられるくらいなら、脳死の方がいい!」と言わんばかりの大鉈を揮った。
しかし映画と小説は別物。映画として面白ければ文句はないのだが、2時間6分もある上映時間が、テレビ・ドラマの総集編を見るような、手応えのなさでは仕方がない。
監督は『ギルバート・グレイプ』でちょっとキワもの、だけど感動系小説の映画化に成功したラッセ・ハルストレム。なのに今回は原作者の脚本に遠慮したか、生彩のない演出に終始。お得意の溜め息の出る美しい映像もない。
加えて主演のトビー・マグワイアは、『ギルバート・グレイプ』のジョニー・デップやレオナルド・ディカプリオに比べ、明らかに役不足。脇を固めるベテラン俳優たちも、芝居を見せる暇もなく、画面を出入りするだけ。
おそらくアーヴィング、ハルストレム、両方のファンは欲求不満、ふつうの映画ファンにも『グリーンマイル』(★★)のような?決め?や?泣かせ?のシーンがないので、魅力に乏しい作品だろう。
こんな映画がなんでアカデミー最優秀脚色賞を獲ったんだ? 「アカデミー会員は?原作者のお墨付き?という権威に弱い」と思うしかない。 ハリウッド映画人がコンプレックスを感じるものといえば、文学とイギリス演劇。それが一番反映されるのがアカデミー賞なのだ。
確かに多くの映画的魅力を犠牲にしつつ、アーヴィングは原作の主題のひとつ、「妊娠中絶の是非」という社会問題をガシッと描くことには成功。『ガープの世界』でメッセージを骨抜きにされたリベンジだけは、果たしている。
というわけで「ハリウッド・ビジネスの中で、ものを考えさせる映画を作るには……?」という、小説家の苦悩の産物と考えれば、一見の価値はある!?
(7月1日より日比谷みゆき座他全国東宝洋画系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.27,2000年7月4日号]
太陽の誘い(1999,スウェーデン他)
★★★
猟奇ものの連続にウンザリしている映画ファン、待望の秀作がやってきた。
「最近疲れてるなあ。少しはなごみたいなあ。『ロッタちゃん はじめてのおつかい』、見たいんだけど、見にいくの、恥ずかしいなあ…」と思ってるキミにズバリ、お薦めの一本である。
何しろ『ロッタちゃん…』の監督が脚本を担当し。監督はスウェーデン好きが昂じて移住してしまったイギリス人。音楽はアイリッシュ・テイスト。こんななごみ系多国籍軍が総力を結集、『オール・アバウト・マイ・マザー』と最後まで、今年のアカデミー賞外国語映画賞を競い合ったすぐれものなのだ。
お話は不器用な田舎の童貞中年男オルフが、インターネットもない時代に、新聞公告で「住み込み家政婦募集」をするところから始まる。「おっさん、なにやっとんねん!?」と突っ込みたくなる設定だが、演じるロルフ・ラスゴードが実にうまい。彼女イナイ歴が年令と一致するキミの心をジンとさせること間違いなし。
そこに応募してきた、エレンを演じる、ヘレーナ・ベリストレムが素晴らしい。美しい。色っぽい。どこかに陰がある。でもだんだんカワイくなってゆく。こんな女が家政婦にきたら、誰だって惚れてしまう。
他の脇役も含め、北欧の俳優陣の層の厚さが堪能できるので、俳優や演出家を志しているキミも必見。新鮮な刺激を受けることを保証する。
案の定オルフとエレンは恋に落ちるが、エレンにはある謎が……この手の展開は最近だと、騙し騙され、腹の探り合いの人間不信ドラマになりがちだが、この映画はそこを見事に回避している。
人を疑うより、裏切られることを覚悟してでも、信じる人間の方が豊かだとの思いが静かに迫ってきて、ラストでは素直に「純愛っていいなあ」と思える。ハリウッドやフランス映画が捨ててしまった、カワイイけれど大人、誰にでも共感できる感動が待っている。
これは現代人に不足している、やさしさとあたたかさを補給してくれる心の栄養剤だ。
(7月1日より銀座シネ・ラ・セットにてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.25,2000年6月21日号]
白い花びら(1998,フィンランド他)
★★★★
(6月24日よりユーロスペースにてロードショー)
エニイギブンサンデー(1999,アメリカ)
★★
監督オリバー・ストーン、主演アル・パチーノ、上映時間2時間31分……"暑苦しい映画"の三要素を見事に満たしたこの映画。個人的にはキャメロン・ディアスのシリアス演技初挑戦、ということで、ファンの操を立てるため、拷問覚悟で見に行った。
ところが冒頭5分でびっくり。「ウソ、オモシロイじゃないか!」テンポ感といいドラマ展開といい、人間描写といい、とてもオリバー・ストーンとは思えない、気持ち良い熱血スポーツ群像劇だったのだ。
日本人にはあまり馴染みのないアメフトの試合が、サッカーとK―1をミックスしたような迫力でスピーディに展開。ルールが分からなくても、手に汗握る映像の連続。
物語は「中田の負傷欠場で投入された小野が大活躍し、ガンガン付け上がっていくのをコントロールする監督の苦悩」という感じ。新旧スポーツ・ファンの喜ぶツボをよく押さえた作りなのだ。
往年の名選手のコーチを演じるアル・パチーノも、うまく灰汁が抜けてる。それ以上に、負傷する名クウォーター・バック役のデニス・クエイドの渋さが光り、ベンチ・ウォーマーから一躍スターダムに登りつめる新人選手、ジェイミー・フォックスの活きの良さと好対照。
そして何より意外なことに、この映画には「根っからの悪人」がひとりも登場しない。チームの売却を画策する女オーナー(キャメロン・ディアス、やっぱり最高!)も、勝利のためにイカサマ診断書を作るチーム・ドクター(ジェームズ・ウッズ)も、みんな立場の違いこそあれ、「アメフト大好き」「チームのため」「選手のため」を思っている点では一緒。そんなスポーツ愛が激突するから、厚みのある、人間ドラマが産まれるのだ。オール・スター・キャストの群像劇としても、近年にない手応え。この映画の前では『マグノリア』(★)がガキの遊びに見えてくる。
エンド・クレジットの大ドンデン返しまで目が離せない、痛快娯楽スポーツ映画。これがオリバー・ストーン監督作品とは……こういう驚きなら大歓迎だ。
(5月27日より日比谷映画他全国東宝洋画系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.23,2000年6月7日号]
ナインスゲート(1999,仏-西)
★
『ローズマリーの赤ちゃん』『吸血鬼』と、悪魔物の名作を連打した、ロマン・ポランスキ監督もはや66歳。「6並びの悪魔の年齢記念」というわけでもなかろうが、久々のホラー・サスペンス、『ナインスゲート』に取り組んだ。
原作はスペインのウンベルト・エーコとも呼ばれるA・ペレス・レベルデ。中世から伝わる謎の悪魔の書をめぐり、「本の探偵」コルソが謎を解こうと、世界をまわる。
映画はものものしい雰囲気で始まり、最近「バケる役ならオレに任せろ」的に、女性ファンを裏切り続けているジョニー・デップが、イカサマ師っぽいコルソ役を好演。いやが上にも期待が募る。
登場するキャラが、みんな謎めいていて、先の展開が読めるようで読めないあたり、さすがポランスキ、久々の復調か……と思ったこちらがバカだった。
途中から映画はどんどん失速しはじめる。『マトリックス』の出来損ないのようなSFXカンフーが飛び出したり、『アイズ・ワイド・シャット』の大爆笑乱交パーティー並みの描写が登場したりで、目が点になる。
謎の人物たちは「悪魔の書」の肉弾争奪戦を始めてしまうし、後半の見せ場は怖いどころか、笑うしかない。
役者陣も「ブチキレ・バイオレンス・セクシーなら朝飯前よ」のレナ・オリン、「オレだってドラキュラ、やったこと、あるんだぞ」のフランク・ランジェラなどが、青筋立ててオーバー・アクト。俳優資源のムダ遣いとしか言いようのない、とんでもない世界に突入してゆく。
どうやらポランスキは、「悪魔なんか、本気で信じてるヤツは、ただのバカだ」と言いたいらしい。そのために流行のサイコ・スリラーのパロディを意図してこの映画を作ったか?
だとしたら監督の狙いは大当たり。脱力感が蔓延する映像と音響は、バカとしか言いようのないラストに帰結。『ホット・ショット』も裸足で逃げ出す、超絶珍品ド間抜け映画に仕上がっている。
だからここに、往年の鬼才監督の冴えなど期待してはいけないのである。
(6月3日より全国松竹系にてロードショー)
[集英社『週刊プレイボーイ』No.21,2000年5月24日号]
(c)BABA Hironobu, 2000/ 2021. All rights reserved.
本サイトのすべてのソースを、作成者の許可なく転載・出版・・配信・発表することを禁じます。